ウサイン・ボルトがスーパーボウルの前哨戦で“史上タイ記録”を樹立!

 この男、引退した今でも規格外のようだ。100メートル走と200メートル走で前人未到の五輪三連覇を達成した、陸上競技短距離界の生ける伝説ことウサイン・ボルトが、本場アメリカのアメフトファンを震撼させたのである。

 ボルトは2月3日、世界最大のスポーツイベントである「スーパーボウル」の開催地である米ジョージア州・アトランタに出現。翌日の試合を前に、体験型イベント「NFLエクスペリエンス」の会場にて40ヤードダッシュに挑戦し、4.22秒でフィニッシュした。アメフトに詳しいスポーツライターによると、これは米プロアメフトNFLの史上最高記録に並ぶタイ記録にあたるという。

「しかもボルトは、スポンサー契約を結ぶプーマのスウェット上下、そしてスニーカーを履いた状態でこの記録を達成。アメフトでは金属製のクリーツ(先が丸まっている突起)を装着したシューズで走りますから、ボルトが平底のスニーカーで史上タイ記録をマークしたのはまさに驚異的です。短距離選手としてのボルトはスタートダッシュ型ではなく、中盤以降に爆発的な加速で抜き去るスタイルでしたが、アメフト特有の40ヤード(約36メートル)という短い距離でも爆発力を発揮してみせたのには驚きました。この結果にファンからは『今からでもアメフトに転向して!』との声もあがっています」

 ただ専門家の間では、たとえ全盛期のボルトがアメフトに転向していても、成功できなかったという予想が支配的だという。スポーツライターが続ける。

「決して陸上選手がアメフトに向いていないということではありません。東京五輪(64年)の100メートル走で金メダルに輝いたボブ・ヘイズは翌年、ダラス・カウボーイズに入団。俊足のワイドレシーバーとして71年シーズンのスーパーボウル優勝にも貢献しました。ではなぜボルトは活躍できないと言われるのか。それは彼が生まれつきの脊椎側湾症を抱えているからです」

 これは背骨がカーブを描いて湾曲するもので、本職の短距離走でも疲労が溜まってくると体幹が左右にブレやすいと言われてきた。それを恵まれた体格と尋常ならざる努力で克服してきたのだが、アメフトはタックルを受けるのが前提の競技。タックルの衝撃が背骨に響くことで、下手をすれば選手生命さえ奪われかねないというのである。

「ボルトは陸上引退後にプロサッカーに挑戦し、練習試合で2得点を挙げる活躍を見せたものの、実力が伴わずに戦力外となっていました。もし若いころからサッカーをやっていたとしても、アメフトと同様に脊椎側湾症で苦しむことになっていたでしょう。とはいえ肉体的接触のない陸上競技では致命的な問題とはならず、世界一の座に就いたのですから、同じ症状に苦しむ世界中の子供たちはボルトから大きな勇気をもらったに違いありません」(前出・スポーツライター)

 偉大なアスリートは引退後にもなお、その偉大さを示してくれるようだ。

(武烈徒・布亜撫)

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