“リーゼント刑事”秋山博康「犯行前夜は眠れないからその顔つきになる」/ガタガタ言わせろ!(2)

 もちろん、悪事を働いていなくても大きめのカバンを持っている人は大勢いるし、「警察官を見ただけでドキドキして目をそらしてしまう庶民と、不審者との見分け方は?」とよく聞かれるけど、職質する対象か否かは、相手の「目」を見て決めている。犯行に及ぼうとしているヤツは、異常に充血している場合が多い。

 ワシは殺人、強盗、放火や立てこもりという重要事件を何件も扱ってきたからこそ知ったんだけど、凶悪事件に手を染めるヤツは、犯行前日の夜は眠れないんだよね。前の晩は「本当に実行していいのか」とか、「この凶器で、本当に犯行を実行できるのか」と思い悩むから、眠れない。そして目を真っ赤にしたまま、犯行に及ぶことになる。

 現職時代に逮捕したコンビニ強盗犯も取り調べ中に白状していた。ヤツは女性店員が1人で勤務する深夜帯を狙って犯行に及んだ。店員に刃向かわれた時用に、大きな出刃包丁を持ち、手袋をはめて。

 ところが最近は、ドアの手すりが鏡のようになっているコンビニが増えているでしょう。その鏡面に犯行直前の自身の顔が映り込み、「うわっ!」と驚いたと。目が血走り、「これから事件を起こしそうな顔つき」になっていたらしい。店員を殺す覚悟でコンビニに入ろうとしている自分を、直視してびっくりしたんだろうね。結局ヤツは実行したけど、その顔を見た時に思いとどまってほしかった。

 山上容疑者は目が充血していなかったし平然とした顔つきをしていたけど、目つきは一般大衆とは確実に違っていた。手作りした銃をカバンに隠していたとは想像もしなかったけど、ワシだったら職質の対象だった。

 職質をするかは長年の経験で養われた、勘とセンス。どの仕事においてもこの2つは、仕事をスピーディに進める共通点かもしれない。

 もちろん、要人が大衆の目の前で演説をする時は不審物のチェックもする。敵がどこかに爆弾を仕掛けているかもしれない。ドローンやダンプカーで攻撃してくるかもしれない。360度目を張り巡らせて、警護に当たるのが常識だ。

 定年退職をしたが、刑事をしていた当時、ワシが部下に伝え続けていた言葉がある。「捜査の結果は、100点か0点しかない」だ。

 警護の場合は、要人がつまずいただけで0点。何事も起きず、平穏無事に終わって100点。刑事という仕事で言うならば、犯人を逮捕できて100点。多忙で疲れていたから犯人は逃したけれど、頑張ったから90点という評価はない。つまり、要人の射殺など、絶対に起きてはいけない事件だった。0点以下!

「SPが教育されていない」と彼らを責める風潮もあるが、SPの実力が伸びない理由は、実は彼らだけの責任ではない。その理由は次回にでも話しましょう。

「国葬」については、ガタガタ言うつもりはない。安倍晋三氏に合掌!

秋山博康(あきやま・ひろやす)タレント。1960年7月8日生まれ、徳島県出身。通称「リーゼント刑事」。元・徳島県警捜査一課刑事。現役時代、「警察24時」などのテレビ番組に出演し人気に。現在は犯罪コメンテーターとして活躍。

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