「小池、出てこい!」─。テレビで訴え続けた徳島の名物刑事を覚えているだろうか。サングラスに永ちゃん風の髪型というイカツイ風貌で「警察特番」を盛り上げた〝リーゼント刑事〟が42年間の警官人生を振り返る。これまでタブー視されてきた犯罪捜査の裏側や知られざる凶悪犯の素顔を大暴露!
「硬直したご遺体の顔を見たら、無念の思いが貼りついて、『なんで殺すんだ』と犯人に訴えているようでした。絶対にワシが捕まえる。そう誓った瞬間でした」
“リーゼント刑事”こと秋山博康氏が振り返るのは、01年4月に発生した「徳島・淡路父子放火殺人事件」。徳島市内の県営住宅と淡路島の別荘造成地で被害者父子が焼死体となって発見された。2人は鈍器で殴られ、さらに灯油をかけられて燃やされていた。
犯人は小池俊一。のちに日本一有名な指名手配犯となる。
「殺害された父親は軽度の障害を持つ息子さんのためにお金を貯め、小池はその合計4000万円の預金通帳を持ち去った。すでに事件の全容を摑んでいたものの、逮捕状が出る寸前で逃げられてしまったんです」
そこから長い追跡捜査が始まる。翌02年にテレビ番組への出演を決意したのも、小池の名前と顔を全国区にするためだった。
「フジテレビの特番で全国にいる名物刑事の一人として出演しました。目立ちたいなんて気持ちはまったくない。それどころか秘匿捜査の妨げになるので、出演を断ったんです。しかし、小池に関する情報提供が減っていく中で、当時の捜査一課長から『秋山、出ろ。お前と小池をペアでバンバン流すことを条件に出ろ』と説得されて承諾しました。ルパン三世と銭形警部みたいな構図を作りたかったんでしょうね。番組では〝美人局の男〟を恐喝する自称ヤクザ男をボッコボコにする映像がオンエアされました。そこで視聴率がドンと上がって、小池の顔を全国に広めることができたんです」
番組の影響は大きかったが、逮捕につながる有力情報はなかなか寄せられない。
「週刊誌の編集部に片っ端から電話をかけたこともあります。マスコミに事件を取り上げてもらうことで、国民の方に捜査員の目になっていただく。これも捜査の一環と思い、頭を下げて回りました」
次に着手したのが指名手配ポスターの刷新だった。当時は上限300万円の懸賞金が支払われる報奨金制度もない。
上司から「ちょっとポスター考えろ」と言われた秋山氏ら捜査員は、
〈この男、2人殺して焼いた顔〉
というキャッチコピーを提案した。
「事件の残忍性を伝えるにはコレだと思ったのですが、上司には『アホか!』と、すごい剣幕で怒られて。その後、大阪にいる専門家の方にアドバイスをもらって出来上がったのが『おい、小池!』だったんです」
インパクト十分のポスターは効果てきめん。全国から続々と情報が寄せられた。
「小池が生まれ育った北海道の札幌には何度も足を運びました。サウナ好きという情報もあって、捜査員とサウナに泊まったら、刺青が入ったイカつい男がやって来て、携帯の待ち受け画面を見せてきたんです。そこには小池のポスターがあって『秋山さん、協力させてもらってますから』と。彼はヤクザの親分で、組の若い衆にも網を張らせているとのことでした」
ところが、事件は意外な結末を迎える。12年10月、トイレで倒れているのを同居女性が発見。病院で死亡が確認されたこの男こそ、05年頃からヒモ生活を送っていた小池だった。
「生きた状態で捕まえることに刑事人生を懸けていたので、かなり落ち込みましたよ。10本の指の指紋まで頭に入れていましたから。小池の死が判明して2日後には目のあたりに激痛が走って、病院に行ったら帯状疱疹と診断されました。それだけ精神的なショックは大きかった」
*「週刊アサヒ芸能」4月14日号より。【2】につづく