今年の2月に延期されていた「FIFAクラブワールドカップ2021」を制し、現在サッカークラブ世界NO.1のイングランド、プレミアリーグのチェルシー。同クラブはロシアでも有数のオリガルヒの1人であるロマン・アブラモビッチ氏がオーナーだったが、彼の資産が経済制裁により凍結されたことで、3月から実質英国政府の管理下におかれるという異常な事態にあった。だがそれも、やっと解消されるようだ。5月6日、新たなオーナー探しで、米メジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースの共同オーナーでもあるトッド・ボーリー氏らと買収交渉で合意に達したとの発表があったからだ。
「ボーリー氏は米ファンドのグッゲンハイム・パートナーズの元社長で、チェルシーの買収はボーリー氏とプライベートエクイティー(未公開)ファンドのクレアレイク・キャピタルらが、25億ポンド(約4000億円)の株式を買い取るとされています。加えて球団に17.5億ポンド(約2800億円)の追加投資もするということで、総額で7000億円近い投資となるようです」(経済ジャーナリスト)
ボーリー氏とグッゲンハイム投資グループはスポーツ事業への投資に熱心で、NBA(プロバスケットボール)のロサンゼルス・レイカーズの運営も行っており、そこにはあのレジェンド、マジックジョンソンも運営者として名を連ねている。だから今回のチェルシー買収も、金満ファンドがスポーツクラブを買い漁った結果とも言えるわけだが、チェルシーの新オーナー探しではそのことが顕著に表れた。
「3月の資産凍結以降、チェルシーの買い手には複数の名前が取りざたされました。例えば、やはりMBLのシカゴ・カブス、NFL(アメフト)のニューヨーク・ジェッツ、NBAのフィラデルフィア・セブンティシクサーズとNHL(アイスホッケー)のニュージャージー・デビルスのオーナー…といった具合。つまり、アメリカの4大スポーツ・チームを傘下に収める資本家が続々と手を伸ばしていたわけです」(同)
その背景にはアメリカでのヨーロッパサッカー人気がある。キラーコンテンツとしてドル箱になっているのだ。プレミアリーグは21年にアメリカ3大ネットワークの1つのNBCと、22‐23シーズンから27‐28年シーズンまでの6年間の放映権契約を結んだが、その額は3080億円。両者はその前に6年間1140億円で契約を結んでいたので、今回は約3倍で更新した格好だ。
4月にはイタリア、セリエAのアタランタがやはりアメリカ資本に買収されている。これでイタリアでは7チーム目、プレミアではチェルシーで10チーム目になる。ヨローッパサッカーは、アメリカでも金のなる木なのだ。
ところでサッカーの日本代表は、出だしに苦戦してワールドカップ連続出場が危ぶまれたが、3月24日にアウェーのオーストラリア戦に勝利して、7大会連続出場を決めてファンを安堵させた。ところがこの試合を問わず、代表のアウェー戦はスポーツチャンネルのDAZNがアジアサッカー連盟(AFC)との間で放映権を獲得したために、多くの日本人がその大一番を見られないという異様な状態となっていた。
さてそのDAZN、イギリス資本だがプレミアリーグの放映は行っていない。25年までは約6900億円で3社に既に振り分けられてしまっているからだ。そこでDAZNはそのうちの1社の買収を目論んでいるとされるが、それには900億円以上が必要とみられている。
一方、日本サッカーにDAZNが進出したのは2016年から。当時はJリーグとの10年間で2100億円の大型契約を結び“黒船来襲”とも言われたが、アメリカ資本が食い漁る世界の趨勢と比べれば、やはり日本サッカーは“お値打ち”だったようだ。
(猫間滋)