今年3月で「朝だ!生です旅サラダ」(テレビ朝日系)を卒業したラッシャー板前(58)。週末朝のご当地旬グルメ、秘湯紹介、地方女子アナと共演する生放送は、まさにアクシデントだらけ。97年から足掛け25年で1000回超を重ねた生レポートの裏舞台を全て語り尽くした。
みんな、羨ましい仕事だと思っていたみたいですね。「旅サラダ」のレポートで、現地入りするのはたいてい放送前日の金曜日。僕は温泉好きなので、まず地元の人が行く共同浴場とかに行く。そうすると「明日は何のネタ?」「今度はうちのを取り上げてよ」なんて、地元のおじさんたちと触れ合える楽しみがあるんです。
「毎週、あちこち行って大変だね」なんて優しい声を掛けられて、つい「いや、週に1回だけですし、ちょっと朝早いのを我慢すればこんな楽な仕事ないですよ」なんて返すと、途端におじさんの顔つきが変わって「だな。それで食ってけんだから、いいよなぁー」って。
でも実際、生放送では苦労もありました。印象深いのは、長野で松茸狩りした時のことです。朝の短い中継では見つけるのが難しいので、放送前日にVTR撮りをしました。お昼に地元の名人が用意してくれた松茸料理をふるまわれて、その後、一緒に松茸狩り。無事に収録を終えて、さすがにその晩の宿では他の料理をお願いしたんです。ところが「うちの松茸料理を小屋のと一緒にしてもらっちゃ困る」ってことで、結局、その晩も松茸料理のフルコースをたらふくいただきました。
だから翌朝の中継でホイル焼きを開けた瞬間、濃厚な松茸の匂いで卒倒しそうになりましたよ。視聴者の方にまさか松茸3連チャンとも言えないし、やっぱり松茸は適量でいいなと思いました、はい。
生中継では、こうした地元の名人たちのご厄介になりました。でも、名人とはいえテレビは素人。予定通りにいかないことが多かったなぁ。
鹿児島に12月に採れる超早採りのタケノコがあるんですが、リハーサルで早く採れる理由を聞くと「まず土がいい。それに気候がねー。何より一生懸命に手間暇をかけてるし、最後には、まぁ俺の愛情だよ─」なんて、延々と語り出すんです。番組は僕の生中継コーナーが押すとスタジオの旅紹介に迷惑が掛かっちゃうこともあるから、本番では多少、名人のトークをはしょらないと、と思っていた。ところが、本番になって、
「どうして早採りなんです?」
「‥‥」
あれだけリハーサルでしゃべっていた名人がウソみたいにだんまり。慌てて、
「土がいいんでしたっけ?」
「デス」
「気候がいい!?」
「デス、デス」
名人が緊張して「デスデスおじさん」になっちゃったんです。
だけど、あまりリハーサルをやりすぎるのも考えもので、本番で「さっき説明したけど〜」なんてやっちゃう人もいて、素人さんほど怖いものはありません。
食レポでは、視聴者によく見えるよう食材を360度見せる意識をしていました。揚げ物では何度もヤケドしましたが、熱いうちに食べることに徹した。おかげで口の中が強くなりましたよ。視聴者と直接キャッチボールはできませんから、スタジオにいる司会の神田正輝さんに「ラッシャー、いいなぁー。こっちはテンション下がってるよ」と言っていただくと、おいしさが伝わっている証拠かなって。調子に乗って、カメラに向かって「神田さん、アーン」とやったこともあります。でも、自宅に帰って録画を見たら「食べれねーだろ!」と怒っている神田さんの目が真剣だったんですよね。
*ラッシャー板前「旅サラダ」25年の事件簿【2】につづく