「ブチャの虐殺はフェイク」中国メディアがロシア側主張を報道し続ける理由とは

 あの悲惨な映像を見せつけられてもなお、「フェイク」だと主張する中国の意図はどこにあるのか。

 ウクライナのゼレンスキー大統領が、国連安全保障理事会でのオンライン演説で、首都キーウ近郊のブチャなどで、民間人が虐殺された惨状を動画で伝えたのは5日のこと。映像に添え、ゼレンスキー氏は「ロシア軍が第二次大戦以来、最も恐ろしい戦争犯罪に関与した」と非難し、安保理の機能不全と改革も訴えた。

 だがこれに対し、ロシアのネベンジャ国連大使は相も変わらず、ウクライナ側の映像そのものが「ウソだ」と反論。「わが国は民間人や民間施設を狙った攻撃はしていない」という主張を繰り返した。

「国連では、ロシアによる2月24日の侵攻開始以降、少なくとも1480人の民間人が死亡、2195人が負傷したとしていますが、映像を見る限り実際の死傷者はその数を大きく上回っていることは間違いありません。民間人虐殺が事実なら、プーチン大統領は国際人道法や国際人権法違反となりますから、戦争犯罪人となる可能性は十分あります」(軍事ジャーナリスト)

 ところが、世界で連日ウクライナのこうした惨状が伝えられる中、相変わらず「フェイクだ」と反発するロシア側の主張を報道し続けているのが、中国だ。

「中国国営中央テレビは5日、正午のニュースで『ブチャ事件の嘘を暴く』とのタイトルでロシア軍部関係者の談話を紹介したのですが、内容は『ウクライナと西側がフェイクニュースをばらまいている』とするラブロフ外相の話や『捏造の証拠を示す』という国連大使などの反論を垂れ流しただけ。『ブチャ事件』と謳っている割には、街が破壊されたブチャの映像や住民の声などは一切放送されませんでした。これでは、中国もロシアのプロパガンダに加担していると言わざるをえません。国営主要メディアである人民日報や新華社も、ブチャにおける惨劇については、相変わらず無視を決め込んだままですから、いつもながら中国の露骨な報道統制にはうすら寒さ感じるばかりです」(中国事情に詳しいジャーナリスト)

 ただ、中国のSNS上では、欧米メディアで報道されたとみられる現場写真や映像などが拡散。《これはあまりに酷過ぎる》《これが事実ならプーチンは戦争犯罪人だ》とする声も多く、《国内の主流メディアは、なぜ惨劇をちゃんと報じないのか》といったコメントが散見。政府の検閲により削除されることも多いが、拡散と削除のイタチごっこが繰り返されているといわれる。

「そんなドタバタ騒ぎもあり、中国外務省の趙立堅報道官は6日の記者会見で初めて『ブチャの一般人が死亡したとの報道や映像は、人々に非常な懸念を与えるものだ』として『事件の真相と原因は必ずはっきりされなければならない』言及。ただその一方で「(真相に関する)結論が出るまでは各方面は自制し、根拠のない非難は避けるべきだ』と述べ、国際社会が対ロ制裁を強化することでウクライナ情勢を悪化させていると言わんばかりの論調で、ロシア寄りの姿勢を明確にしました」(同)

 同じく専制主義国家で、米欧を共通の敵とする部分で国益が重なりあう両国。そういう意味でも中国は、ロシアを孤立させるわけにははいかないのだろう。

(灯倫太郎)

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