世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「佐々木朗希はあの名投手の再来か」

 ロッテの佐々木朗希がオープン戦から、えげつないボールを放っている。3月5日のソフトバンク戦(ペイペイD)では、5回を2安打無失点で9奪三振。ストレートのMAXは163キロを計測した。その数字を見た時は、スピードガンのネジを巻きすぎちゃうんかと疑ったけど、映像を見るとほんまに速かった。まだ3月の寒い時期に、エグすぎる球やった。

 その試合で投げ合ったソフトバンク・東浜のコメントが異次元ぶりを物語っていた。「びっくりしすぎて言葉が出なかったですね。平均で160キロぐらいでしょ。『勝てんな、コレ』と思いました」と。最多勝を獲得したこともあるプロ10年目の投手が舌を巻くんやから相当なもの。そんなに力んで投げているわけでもなく、ゆったりしたモーションからズドーンと来るから打者は全くタイミングが合わない。制球難で自滅する感じもなく、クイックも速い。フォークボールの精度もいいから、相手チームは手のつけようがない。

 試合前のソフトバンク・藤本監督は佐々木攻略に向けて、あえて「引っ張り」指令を出したという。「センターに打ったら(遅れて)ファウルになるから引っ張れ」と。ところが蓋を開けてみたら、引っ張るなんてとても無理やった。速い球に対抗して強く振るのは間違い。あれだけの球を攻略するには上からコツンと叩くようにセンター方向にミートを心がけると、うまくいけば逆方向に強い打球が飛ぶ。相手の球威を利用すれば、当てただけでも意外と飛んでいくもんやから。

 球数を放らせることも考えなアカン。スタミナ切れを待って、とにかく1球でも多く投げさせること。高めは振っても遅れて当たらんし、低めはフォークボールとの見極めが難しいから、ベルト付近のボールだけを振るようにチームで徹底するのも手。セーフティーバントで執拗に揺さぶるのもアリやろうな。

 でも、実際に打席に立つと、口で言うほど攻略は簡単ではない。僕の現役時代に対戦した中では「オリエント・エクスプレス」と言われた西武・郭泰源に近いイメージかな。力みのないフォームから、とんでもなく速いストレートを投げ込んできた。ロッテ・村田兆治、西武・渡辺久信、東映・森安敏明、左では近鉄・鈴木啓示、阪神・江夏豊ら速い投手は他にもたくさんいたけど、ちょっと郭泰源は質が違っていた。ホームランを打ったこともあるが、あれは儲けものの一発。ストレートのタイミングで待っているところにフォークが来て、たまたまバットの芯で捉えることができた。

「振り遅れている打者に変化球を投げたらアカン」という典型的な打席やった。

 佐々木はこれから暖かくなれば、どんな球を投げるのか末恐ろしい。今のまま1年間ローテを守ることができれば、間違いなくタイトル争いに絡んでくる。昨季のタイトルを総なめにしたオリックス・山本由伸と匹敵する成績を残せると思うで。

 大船渡高校の時は岩手大会の決勝戦で投げずに負けて、ロッテに入った1年目も体づくりが中心やった。正直なところ過保護すぎると思っていたけど、3年目でついにお客さんを呼べる本物の怪物投手が誕生しそう。怖いのは故障だけやな。柳田や吉田正尚ら、超一流の打者たちが必死になって立ち向かう打席が、今から楽しみや。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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