競馬・藤沢和雄の「革命伝説」35年(4)グランアレグリアは調教師人生の集大成

 01年にクラシックレースが外国産馬に開放され、02年以降はダービーにも次々と送り込んだ。特にシンボリクリスエス(2着)、ゼンノロブロイ(2着)、ペルーサ(6着)、コディーノ(9着)あたりには大きな手応えをつかんでいたが、それでも勝利することができなかった。

「クリスエスが青葉賞を勝った時、ユタカ君(武豊騎手)に『この馬、秋になったらよくなりますよ』と言ってもらったことも忘れられない。その言葉が現実になり、それほどダービーは大変なレースなんだと思った。だからこそ、レイデオロで勝たせてもらった時は本当にうれしかったね」

 開業30年目(17年)に訪れた待望のダービー初制覇。19頭目の挑戦で手にしたダービートレーナーの称号を多くの関係者やファンが笑顔で祝福した。

 調教師人生の集大成とも言えるのがグランアレグリアだ。1600メートルと1200メートルのGⅠを6勝。ラストランのマイルCSは藤沢和師にとっても最後のGⅠ制覇になった。

「何よりもスピードがあったし、マイルでは桁違いに強かった。過去にシンコウラブリイやタイキシャトルなどでマイルのGⅠを勝たせてもらったけど、この馬が一番かもしれない。それぐらいの名牝だと思うよ。

 デビューした頃から馬体重が50キロ近くも増えたし、すごいと思うのは最後まで気持ちを切らさなかったこと。早くからトップクラスで走ってきたし、普通なら体や心が疲れたり、競馬が嫌いになってしまうこともある。そんなところを見せず、最後まで前向きに走った。こんな馬ばかりなら楽なんだろうけどね」

 ラストイヤーには2000メートルのGⅠ(大阪杯4着、天皇賞・秋3着)にもチャレンジした。

「マイラーのスピードで秋の天皇賞を勝ちたかった。唯一、2000メートルで勝てなかったことは心残りです」

 と悔しさを口にするが、「まだ余力があるうちに繁殖牝馬として牧場に戻すことも調教師の大事な役目。競馬はブラッドスポーツだし、優秀な血を次の世代につないでいかねばならない。この馬自身もすばらしい血統。いい母馬になると思います」と、第二の馬生でも成功を願う。

 最後に改めて調教師人生を振り返ってもらった。

「完璧ではなかったけどね。やりがいのある仕事でしたよ。ダービーはもちろん、海外で勝たせてもらったレースもすばらしかった。USAの血統(タイキシャトル)でヨーロッパのGⅠ(ジャック・ル・マロワ賞)を勝つことができたのは最高の思い出。アメリカのブリーダーズカップやベルモントS、イギリスのロイヤルアスコット開催にも挑戦させてもらった。そうだな、俺は幸せ者だよ」

 と、笑う。

 調教師として30年以上、若き日に渡英した頃も含めると40年以上のホースマン人生。毎日、大好きな馬たちと向き合ってきた。その功績を多くの関係者が称え、同時に感謝の言葉を口にする。藤沢流の改革は伝説として次の世代に受け継がれ、その時代に合ったものにアップデートされていくのだろう。

 筆者自身も藤沢和師の取材を通じ、海外出張など貴重な経験を積んだ。時に「半端な仕事はするな」と叱られたり、取材以外の会話でも藤沢調教師の前では心地よい緊張感があった。

 以前から「周りに〝さすが〟と思わせるようなレベルの仕事を見せられなくなったら終わり」と言い続けていたが、知り得るかぎりでも数々の〝さすが〟を見させていただいたことに感謝しかない。長い間、ありがとうございました。

〈藤沢和雄調教師の主な記録〉

1988年3月:美浦トレセンで厩舎開業。初出走はケイアイパワー(3着)

1988年4月:初勝利(ガルダン、谷川岳S)

1988年5月:重賞・GⅠ初出走(ガルダン、安田記念6着)

1992年6月:重賞初勝利(シンコウラブリイ、ニュージーランドT)

1993年11月:GⅠ初勝利(シンコウラブリイ、マイルCS)

1993年度:44勝を挙げJRA賞最多勝利調教師に輝く(95年〜09年で11回、通算12回受賞)

1997年度:年間重賞13勝の新記録を樹立(タイキシャトル、タイキブリザードなど)

1998年8月:海外GⅠ初制覇(タイキシャトル、ジャック・ル・マロワ賞)

2003年12月:有馬記念を連覇(シンボリクリスエス)

2004年4月:クラシック初勝利(ダンスインザムード、桜花賞)

2004年12月:秋の古馬GⅠを3連勝(ゼンノロブロイ、天皇賞・秋、ジャパンC、有馬記念)

2008年5月:史上初!日本調教馬で米ダート重賞勝利(カジノドライヴ、ピーターパンS)

2009年9月:通算1000勝を達成(ワールドカルティエ)

2017年5月:悲願の日本ダービー制覇(レイデオロ)

2020年6月:通算1500勝を達成(シークレットアイズ)

2021年6月:マイルCS通算6勝で歴代最多勝利記録を更新(グランアレグリア)

特別寄稿・和田稔夫(わだ・としお)「週刊Gallop」記者。1974年生まれ。大学4年の時にトラックマンを夢見て「競馬エイト」編集部でアルバイトを開始。その後「サンスポ」レース部を経て「週刊Gallop」記者に(現在は本誌予想を担当)。現場一筋で01年頃から藤沢和雄厩舎番を務めた。

*「週刊アサヒ芸能」3月3日号より

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