6月11日〜7月11日までの1カ月の間争われたヨーロッパサッカーNO.1国を決めるUEFA欧州選手権(ユーロ)では、イタリアがなんと1968年以来、実に53年ぶりに2度目の優勝をして名門国の面目躍如を果たした。
ところ優勝の熱も冷めやらないまま国内リーグのセリエAの21‐22年シーズンの8月22日の開幕直前にして、インテルとミランというミラノを本拠地とする名門クラブが揃って“買い手”を探しているというニュースが流れ、イタリア・クラブの変わらぬ苦境ぶりが伝えられた。すると実際に9月23日には昨季のセリアAで11位だったジェノアがアメリカの投資会社「777パートナーズ」に買収されたというニュースが流れ、これに輪をかけた。
「買収額は約194億円。それにより、セリエA20チームのうち6チームがアメリカのファンドによって保有されることになりました。今、セリエAは投資ファンドの草刈り場になっているのが現状です」(経済ジャーナリスト)
ジェノアは1893年設立で過去にリーグ優勝9回を数える古豪だが、それよりもかつて三浦カズがイタリア移籍した先と言った方が日本人にはなじみが深いだろう。当時は、「日本人がいよいよ世界最高峰の舞台に挑む!」といった論調で語られたものだ。それだけイタリアのクラブがかつては輝いていた時代があったのだ。
イタリアのサッカークラブの金満ぶりが目立ったのは1980〜90年代のこと。古くはジーコやマラドーナ、フランスで“将軍”と呼ばれたプラティニらが、その後もジダンやロナウジーニョなど、W杯で活躍したスターがキラ星のごとくイタリアのクラブに在籍したものだった。そして、ユヴェントスやミランはヨーロッパクラブNO.1を決める現在のUEFAチャンピオンズリーグの前身のチャンピオンズカップ2000では優勝もしくはベスト4だったものの、年代が特に10年を越える辺りからは急激に没落。ヨーロッパサッカーの中心はイングランドやスペインに移っていった。
「今やチャンピオンズリーグではイタリアの名門では唯一、クラブ運営が安定している優等生のユヴェントスが何とか上位に食い込む程度にまで落ち込んでいます。ところが今年のユーロでは、イタリアがあれよあれよという間に、優等生のスペイン、イングランドを準決勝、決勝と破って優勝。国産の選手層の厚さを示しました。ということは、ファンドにとっては“買い”ということになります。選手とクラブという資産が伴っているにも関わらずその価値が生かされていないわけで、安い買い物として仕込んだ上で財務を安定させて“出口”である買取先を見つけてくる、という企業再生の形で必ず儲かるはずですから。だからこそこれまではサッカーとは縁遠かったアメリカ系の複数の個人や機関投資家からお金を集めたプライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンドが次々と食指を伸ばしているというわけです」(前出・ジャーナリスト)
そもそもがインテルを保有しているのは中国の家電販売大手の蘇寧グループで、ミランはやはりアメリカのヘッジファンドの「エリオット・マネージメント」で共に外国資本だ。ただ蘇寧グループの場合はコロナの影響や中国政府の締め付けもあって積極的な他国投資が祟って急激に業績が悪化、国内リーグの江蘇FCは解散させられていて、ミランの場合は経営のブラッシュアップで「企業価値」を高めたから企業再生はひと段落、売り時を探っていたためと事情は異なるが、いずれにせよ親会社にとってクラブは既に用済みで、買い手を探しているという事情は同じだ。
ただ違うのは、再生が行われたか否か。インテルは看板選手の売却やさらなるアメリカの資産運用会社からの借り入れで何とかもっているというのが実情。結局はどこかで世界的マネーの流れに身を任せて経営の膿を出し尽くさない限り、クラブレベルでのイタリア再興は叶わないのが実情のようだ。
(猫間滋)