中国の大規模停電は不動産・IT・教育・エンタメに続く大規模規制の一環か

 9月下旬から中国で大規模停電が続いていることは日本にも伝えられている。中国にある31省・直轄市のうち、20省・直轄市で停電が断続的に生じているというから極めて大規模なものだ。

「特に大規模な停電が起こった中国東北部では、信号やエレベーターが止まり、携帯電話の充電もままならず、ロウソクの買い占めが起こりました。さらには工場内での排気設備がストップしてしまったため、ガスを吸った工場労働者23人が病院に運び込まれる事態まで起こったほどです」(中国事情に詳しいジャーナリスト)

 これではとても世界第2位の経済大国とも思えないが、とりわけ頭の痛い事態になっているのが、広東省、江蘇省、浙江省の中国南東部だ。この一帯は中国の中でも工場が集中するベルト地帯で、ここでも停電が起こっているため、影響は国内のみに留まらない。そもそもが世界的な半導体不足の中、この地帯には世界的な半導体メーカーが工場を構えているため、世界的な半導体不足に拍車をかけることになっている。特にアップルやテスラ、フォード、フォルクスワーゲンはこの地帯から半導体の供給を受けているので、会社としては気が気でないだろう。

「一方で、代わりに恩恵を受けると見られるのが台湾です。台湾の中央銀行の総裁が議会の委員会に出席した際、中国の停電が長引いた場合、台湾経済にどう影響するかを問われ、企業などが台湾に注文先を変更することを余儀なくされ、台湾の輸出にとっては有利に働くはず、と答えています。また、足りない電力を代わりに賄っているのがロシアです。もともとロシアのエネルギー企業は中国に電力を輸出していたが、さらに供給量を増やして欲しいと中国から要請があったことを明らかにしています。当面は、日常生活すらままならないうえに今後の暖房需要が増す、ロシアから近い東北3省(黒竜江省、吉林省、遼寧省)から先に供給を行っていくでしょう」(前出・ジャーナリスト)

 中国国民にとっては迷惑以外の話でしかないが、風が吹けば桶屋が儲かるように、台湾にしてみれば漁夫の利を得る形となり、ロシアとしてはお得意先になるうえ、”貸し”を作るというメリットも得られることになりそうだ。

 そして確実に1人苦しむのは中国国民だ。大規模停電の理由は、世界的な石炭価格の高騰があって、加えてコロナ禍をイチ早く脱した中国製造業への需要の高まりから、というのが“表向きの理由”ではあるが、一方で“政治的理由”も確実に存在するからだ。

「中国は7月に共産党100周年を迎えたタイミングを機に経済政策を大きく転換させています。不動産融資に総量規制を強いたがために一気に経営危機を迎えた中国恒大グループのような『不動産』、ニューヨーク証券取引所にIPO(株式上場)した直後に個人情報の適切な取り扱いがなされていないことを理由にアプリの配信を停止させたディディ(滴滴出行)のような『配車アプリ』や『IT』、小中学生の塾通いを禁じた『教育』、オーディション番組などを禁じた『エンタメ・芸能界』といったように、結果、経済が冷え込むことも厭わずにあらゆる分野で規制を乱発しています。急速に膨張した中国経済を、今度は成熟したものとするためです。それは電力も同じで、習近平は終身国家トップとして2030年までのカーボンピークアウト、60年までのニュートラル実現を国家目標として掲げた以上、現在の電力不足は必要な過渡的状態と考えているのでしょう」(前出・ジャーナリスト)

 21‐22年の冬季は太平洋赤道域の海面水温が上がって気温が上昇するエルニーニョ現象とは逆の現象であるラニーニャ現象が起こって、中国でも厳冬を迎える可能性が高いという。だから電力価格の上昇によるインフレなどが懸念されているが、それも考えてみれば来年2月に北京オリ・パラが開催される予定だから、経済悪化はさておき、国の威信にとっては厳冬カモンというのが習近平の本音なのかもしれない。

(猫間滋)

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