日本中を揺るがせたカルロス・ゴーン日産自動車会長の逮捕劇。自らの収入を過少申告したことによる有価証券報告書の虚偽記載をはじめ、会社の資産を私的に不正流用した背任容疑も疑われており、もはや日産の経営に復帰することは不可能と見られている。
そんなゴーン会長の逮捕を巡って、日産社内からはゴーン氏をかばう声はほとんどないという。たしかに瀕死の日産を救った功績は賞賛されてしかるべきだが、ゴーン氏が辣腕を振るったのは最初の数年間で、その後はむしろ権力独占の弊害が大きかったと言われる。またリストラに伴う社内文化の変化に戸惑う社員も少なくなかったというのだ。自動車ライターが声を潜める。
「かつては『販売のトヨタ、技術の日産』と呼ばれるなど、日産のエンジニアは自分たちの技術に自信を持っていました。そして自動車メーカーにとって研究開発は生命線ですから、ゴーン氏も激烈なリストラを進めつつ、研究開発費を削ることはなかった。それが『リーフ』のような電気自動車や、“インテリジェントモビリティ”に代表される自動運転技術の推進に表れています。その一方で、ルノーの傘下に入ったことでこれまで以上に欧州流の車づくりを意識することになり、そのために後追いや猿真似と揶揄されかねない、後ろ向きの研究開発も進められるようになりました」
その典型的な例がドアの開閉音だという。自動車メーカーはどこでも他社の車を研究し、その優れた面を取り入れようとしている。日産の某エンジニアはヨーロッパ製の高級車を試験モデルに使い、ドアを開け閉めする時の「バスン!」という音を研究。その音を解析することで「高級さを感じさせる開閉音」を再現しようとしているというのだ。
「他社製品の研究と言えば聞こえはいいですが、ドアの開閉音というのは本来、ボディ全体の構造や材質に依存するもの。ドアの厚みやボディの剛性といった基本設計を変えずして、開閉音だけを変えるというのは本末転倒な話です。そういった小手先の高級感に踊らされるほど消費者はバカではありませんし、エンジニアにとっても“車屋”としての技術者魂に響くことのない、退屈な作業に違いありません。しかし変なところで欧州流にこだわるあまり、表面的な部分にだけ手を入れるような研究に貴重なリソースを費やすあたり、ゴーン体制の弊害を象徴しているように感じられますね」(前出・自動車ライター)
果たしてゴーン氏なきあとの日産は、どんな方向に変化していくのか。日本企業としての細やかなものづくりが進むのか、はたまたルノーの影響力により欧州風の車づくりを推進するのか。いずれにしても、ユーザーが欲しいと思う車の登場を期待したい。