中田翔「暴力移籍を美談に」を断罪する(2)「黒い物も白」の球団本質を見た

 そんな「暴力移籍」が美談にすり替わった最大要因は、ミスターの担ぎ出しに他ならない。この見え見えのイメージアップ戦略にはさすがのG党も大ブーイングを寄せている。例えば93万回以上再生されている件の動画へのコメント欄にも、

〈長嶋さんは神よ。その神からパワーもらって活躍。最高じゃん〉

 といった手放しの肯定的なコメントの反面、

〈巨人軍がやってることはミスターにもめちゃくちゃ失礼だと思う〉

〈なんで美談になってんだ‥‥こえーよ〉

 など批判の声も上がっているのだ。やく氏も、

「一部のメディアが『暴力ロンダリング』という表現をしていましたが、いい得て妙だなと。黒い物も白と言う、巨人という球団の本質を見た思いです。私は問題の全貌が早く明らかになって、それを隠蔽したジャイアンツもろとも瓦解するくらいの徹底的な追及を望んでいます」

 と手厳しい。記者として「夕刊フジ」で長嶋終身名誉監督を長年取材してきた江尻良文氏はこう語る。

「長嶋さんは、選手の才能を生かすことに全力を注ぐ人で、例えば私生活で何か問題があったとしても『関係ない』と言ってしまえる懐の深さがあります。かつて自身が引退して監督になった時、王貞治さんに他球団のマークが集中するため、当時、週刊誌などで『黒い交際疑惑』が取りざたされていた張本勲さんの獲得を球団に進言し、球団代表に土下座までするような人。中田を激励したのも純粋にそうしたかったからですよ。逆に原監督なんかは、阪神の後塵を拝する2位の状況で、戦力増強に『背に腹は代えられない』という考えはあるでしょう」

 電撃移籍に至る経緯としては、栗山監督と原監督がともに「栗山監督が中田の処遇を原監督に相談。中田の将来を慮った結果、巨人がそれを受け入れた」という主旨で各メディアにコメント。両者の昵懇の関係も相まってそれが「定説」とされている。スポーツ紙野球担当デスクの見方はやや違う。

「実際には、巨人サイドから獲得に動いたらしいですよ。長年課題だった5番打者を無償で獲得できる大きなチャンスだ、と判断したようです。原監督は間違いなく栗山監督と口裏を合わせ、長嶋さんが贖罪の象徴として見えるような〝絵〟を描いたと思いますね。日本ハムにとっても渡りに船。昔から陰で『ケチハム』と呼ばれてきました。年俸3億円を超えた選手は必ず切るし、トラブルメーカーは有無を言わさず排除する、人情の介在しない球団です。契約更改でモメて放出された糸井嘉男(40)がいい例。ただ、中田に関しては18年の『阪神FA』が流れて以降、引き取り手がいなかった。つまり、中田を厄介払いしたいケチハムと、欲しい欲しい病の巨人の思惑が合致したトレードだったということです」

 そうした実情を隠して、キレイごととして片づけたい演出が透けて見えるのも、ファンから不信感を持たれることにつながっている。そこになぜ気づかないのか。それとも、そんな声は黙殺すればいいとタカをくくっているのか‥‥。

*「週刊アサヒ芸能」9月9日号より。(3)につづく

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