藤井聡太と‶天敵″豊島将之(3)「99対1」から大逆転された

 悪い流れを断つ手段はあるのか。深浦九段は豊島竜王の戦術をこう分析する。

「強打の豊島竜王は1Rから猛ラッシュを仕掛けてくる棋士です。タイトルホルダーともなると、相手にある程度好きに指させて、最後にしっかり押し切って勝つという横綱相撲を展開する場合が多いのですが、豊島竜王はトップ棋士では珍しく最初からガリガリくるタイプです。その上、途中からきれいにまとめてスキなく勝ち切る得意技があるので、その緩急のある攻めに、藤井王位はやられてしまう」

 第1R開始のゴングから強打をブンブン振り回す豊島スタイルに、藤井二冠は戸惑ってしまうのだ。

 途中から豊島マジックにハマッたのが、20年10月の王将戦予選リーグ。将棋中継では頻繁に使用される「AI予測」で99%勝利というところまで追い詰めながら、まさかの大逆転を喫してしまう。

「中盤から優勢に進めていたのが藤井二冠。AIソフトは『藤井二冠99対豊島竜11』と圧勝を予告していた。しかし、106手目に打った『4四角』で混戦となり、形勢がひっくり返った。その後は藤井二冠が悪手を連発し、まんまと大逆転負けを食らった。あまりの不覚から、藤井二冠はみずからの膝を打って悔しがったほどです」(将棋ライター)

 白熱の藤井vs豊島対決は公式戦全9戦にとどまらず、奨励会時代の非公式戦まで遡る。

「豊島竜王も同じ愛知県出身で、藤井王位の師匠の杉本八段が、藤井少年を強くするためにぶつかり稽古をお願いしています」(深浦九段)

 その初対戦は14年12月。小学校6年生で奨励会初段の藤井少年は豊島七段(当時)と対戦し、完敗している。

 第2戦は、17年5月の岡崎将棋まつり。14歳2カ月の史上最年少棋士としてデビューし、16連勝を重ねる新星スターが数百人の見物客の前で土をつけられた試合は「藤井四段、豊島八段に完敗」と屈辱の黒星ニュースとして報じられた。こうした若き日の完敗という苦い記憶が、トラウマとなって刷り込まれているのだろうか。

 こうした棋士の相性について、深浦九段が説明する。

「将棋界で対戦成績を見ていると、キャリアのある棋士が最初は勝ち越すものです。豊島竜王はタイトルホルダーで場数を踏んでいるが、内容的には競っている将棋が多い。藤井王位はまだ負けが込んでいるが、そのうちしっかりとした実力を備えて星を返していくはずです」

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