オールスターのファン投票で、首位の阪神から最多の7人が選出された。13年ぶりリーグ優勝へのファンの期待を感じる。リーグ最多得票はドラフト1位の佐藤輝。これは予想どおりやけど、遊撃手部門で1位の中野の人気には驚いた。2位の巨人・坂本に8万票以上の差をつけた。坂本が故障でしばらく戦列を離れていたとはいえ、ドラフト6位新人が下剋上をやってのけた。
6月終了時点で64試合に出場、打率2割7分1厘、1本塁打、16打点、14盗塁。交流戦期間中には打率3割に乗せ、貢献度は数字以上。リーグワースト失策数11のショートの守備は、かわいそうな面もある。プレーが雑な時もあるけど、守備範囲が広いから、他の選手なら追いつけない打球で失策がつくこともあるから。土のグラウンドのハンデもあるし、失策数の多さは大目に見たい。
中野自身は交流戦が終わったぐらいから調子が下降線で、球宴出場は大きな発奮材料になると思う。僕らの頃と比べてコワモテのベテランは少ないけど、一流がそろうベンチでかしこまりながら、いろんな話を聞いてきたらいい。試合に出てヒットを打って、盗塁を決めようものなら、とてつもない自信となる。俊足選手として全国区に名前をアピールしてほしい。
今年のセ・リーグの盗塁は阪神の近本、中野、ヤクルトの塩見がトップ争いをしているけど、中野がタイトルを獲得する目は十分にあると見ている。3年連続で盗塁王を目指す近本が本命やけど、最近は走ってもいい場面でスタートを切れないことが増えてきた。中野のほうが怖いもの知らずの思い切りのよさがある。
近本の気持ちもよく分かる。当然、相手は警戒しているし、簡単には走れない。タイトルホルダーとして、アウトになるのが格好悪いというプライドもあると思う。でも、そういう厳しい環境でも走ってこそ、盗塁でファンを呼べるスターといえる。僕も「これは行ったらアウトになるかも」と思いながらスタートを切った。成功率10割を目指していては数字は伸びないし、相手バッテリーへのプレッシャーのかけ方も少なくなる。僕の場合は7割成功すればいいと、アウトになってもめげずに走り続けた。
でも、いつも言うように盗塁を増やすには、塁に数多く出ること。中野が近本に競り勝ってタイトルを奪えるかどうかもバッティング次第となる。もしマイナス材料があるとしたら、打順がいっときの2番から7番に戻ったことやな。
糸原が故障で離脱していた間は、近本の後の2番を打つことが多かったけど、中野としては案外打ちやすかったはず。タイプ的に近本と似ているから、相手バッテリーの攻め方が参考になる。近本が塁に出た場合は盗塁警戒でストレート系が増えるから、余計に狙い球を絞りやすい。クリーンアップの前に四球で走者をためたくないので、ストライク勝負してくれる利点もある。それに比べて、下位打線になると、相手はノビノビと攻めてくるから、塁に出るのが難しくなる。
このまま本物のレギュラーになれるかどうか。一番心配なのは故障やね。走塁でも守備でも、アタマから飛び込むのが好きな選手やから。その故障防止といえば、最近、球界で流行のアレはいかがなものかとも思ってる。「鍋つかみ」みたいな走塁手袋。その話の続きは次週にでも─。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。