いよいよ、鉄道の世界にもマッハの時代がやってくるのか。
中国山西省で、時速1000キロ以上で走行する超高速リニアモーターカーの実験線建設が始まった、というニュースが23日の西日本新聞で伝えられた。
同紙によれば、建設が始まっているのは、気圧が低い低真空チューブの中を超電導磁気浮上で飛行する仕組みにより走行する「高速飛車」と命名されたリニアで、現存する「上海リニア」の430キロをはるかに上回る、理論上ではあるものの、時速4000キロが実現できるという、まさにモンスターなのだという。
海外の鉄道事情に詳しいジャーナリストが語る。
「このプロジェクトは、山西省の中北大と、ロケット開発などを手掛ける国有企業『中国航天科工集団』の研究機関が共同開発しているもので、5月には同省大同市に全長2キロの実物大実験線を建設、実験を重ねたあと、5キロ、15キロと延伸する計画だと言います。中北大関係者の話では、真空に近いチューブ内を〝飛行〟するため、極限まで摩擦が低減。銃弾の速さである秒速300メートルまで加速できるのだとか。それが事実だとしたら、中国高速鉄道の歴史、いや世界の高速鉄道の歴史が大きく塗り替えられるはず。中国は高速鉄道関連だけで約6兆元(約102兆円)の巨額債務を抱えていますが、習近平指導部としては、採算を度外視してでも『鉄道強国』としての技術力を諸外国に示したい。正直、金に糸目をつけないというところが、中国の強みと言えるでしょうね」
中国では、すでに一般旅客が乗れる高速リニア『上海リニア』の営業運転を行っており、上海郊外の浦東国際空港へのアクセス交通として使われている。
「上海リニアは、1999年に開港した上海浦東国際空港と上海の市街地を結ぶ乗り物として2001年3月に建設を開始。2003年10月から運用がスタートしましたが、ドイツのメーカーが開発した『トランスラピッド』という技術をそのまま活用したこともあり、中国としては、次は自国の技術で、という思いが強い。『上海リニア』の最高速度は、時速430キロですから、そのスピードを上回る『高速飛車』への期待は是が非にも高まっているようです」(同前)
上海リニア運用開始から早18年目。昨今では施設老朽化もささやかれ、さらに新型コロナウィルスにより利用者も減少。運行は継続しているものの、コスト削減等のため、今春から初めからは最高速度を300キロに落として運行しているというが、
「正直、時速300キロでは日本の新幹線やフランスのTGVよりも遅いため、もはや世界一と名乗れなくなった。そういう意味では『高速飛車』は中国にとってトップに返り咲く切り札。なにがなんでも完成させなければいけない国家プロジェクトでもあるというわけです」(同前)
一方、そんな中、日本では、相も変わらずリニア中央新幹線の東京・品川—名古屋のルートをめぐり「水資源や生態系への影響が回避できない場合は、地元自治体と相談した上でJR東海にルート変更や工事中止を訴える」とする静岡県知事との間で「変更しろ」「しない」のすったもんだが続いている。
近い将来、北京や上海など大都市間を結ぶ長距離リニアの整備構想もあるという中国。エンタメ同様「鉄道」でも、日本が差をつけられる日が近いかもしれない。
(灯倫太郎)
*写真は上海リニア