巨人・菅野の今季の活躍によっては、いよいよ「カーブ復権」につながる。縦割れカーブの使い手としては昨季、ソフトバンク・石川、広島・森下が、それぞれパ・リーグ最多勝&最高勝率とセ・リーグ新人王の活躍を見せた。今年は巨の投手コーチに就任した桑田コーチに手ほどきされ、菅野が春季キャンプからカーブに磨きをかけてきた。オープン戦での投球を見ると、かなりの精度に仕上がっている。
僕らの時代は縦割れの大きなカーブはドロップと称され、投げる投手が多かった。代表例が400勝投手の金田正一さん。プロ1年目の日本シリーズでベンチから見たカネやんのカーブは印象深かった。ワインドアップのゆったりしたフォームで、2階から投げ下ろす感じやった。打席には立つ機会がなかったけど、先輩たちが打ちづらそうにしていたことを覚えている。堀内、江夏、江川、工藤ら一時代を築いた投手もカーブを武器としていた。
打者からすると本当にやっかいな球。フワッと来るのでタイミングがずれるし、目線もぶれる。ストレートを待っている時に、早いカウントから打ちにいってアウトになると、もったいない気がする。カーブのあとのストレートは目の錯覚の割り増しで速く見える。オリックスで活躍した星野伸之はスローカーブのあとの120キロ台のストレートで、パ・リーグの猛者を振り遅れさせていた。ストレートと全く同じ腕の振りで投げる高い技術があるからこその「魔球」やった。
カーブという球種は狙いにいっても、そう簡単には打てない。緩い球やからよく見えるんやけど、逆に見すぎて振り遅れるケースがある。それにカーブといっても、投手によってそれぞれ曲がり方やスピードが違う。右投手と左投手でも違うし、実際に打席の中で振っていって、タイミングをつかんでいくしかない。
打者にとってはそれだけ嫌な球やけど、いつからかマイナーな変化球になっていった。投手からすると、スライダーやフォークのほうが楽に打ち取れる感覚なんかもしれん。そういう球は腕の振り自体はストレートと同じように強く振ればいいから。高校野球を見ていても、昔はカーブとストレートという投手が多かった。今は誰でもスライダーとフォークを中心に投げるし、チェンジアップやシュート、ツーシームまで投げる高校生がいる。
話は脱線するけど、最近の野球は球種を細かく分類しすぎて、解説者泣かせになっている。カットボールとスライダー、フォークとスプリットなんて曲がり方の差だけやし、本人次第の面がある。ストレートの握りを変えて投げるツーシームは「動く球」ともてはやされるけど、個人的にはその言い方は好きではない。投げた球はみんな動いている。止まっている球はゴルフだけやから。
菅野も球種の多い投手やけど、新しい武器となったカーブは120キロ台で、今までの持ち球よりダントツに遅い。投球の幅が間違いなく広がる。昨年は14勝2敗という申し分のない成績を残したけど、まだまだ進化しようという姿勢は感心する。「緩急」に磨きをかければ、ポスティングでのメジャー移籍がかなわなかった米球界での注目度もさらに高まるはず。そうなれば高校生もマネして、カーブに磨きをかける投手が増えると思う。負けないエースの進化に注目やね。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。