世界の福本豊<プロ野球“足攻爆談!”>「秋広が『伝統の一戦』を甦らせる」

 巨人のドラフト5位ルーキーの秋広優人は、周囲から騒がれるだけのモノを持っている。まだ高校生で1軍のオープン戦で結果を出すのだから大したもの。上体だけでなく、しっかりと下半身も使ってバランスのいいスイングをしている。高卒ルーキーが開幕スタメンを果たせば、巨人では王さん以来というから、なんともスケールの大きな話になってきた。

 身長が202センチもあるわりには、手足の長さが邪魔になっていない。走力もあるし、ふつうの人より塁間の歩数が少なく済むのも利点。今は「背の高い周東」という感じで、体形はスラッとしているけど、これからもっとガッチリしてくる。そうなると打球の飛距離も伸びる。4、5年後にはどれだけの選手になっているのか。無限の可能性を感じる。

 それにしても、これだけの逸材がよくドラフト5位まで残っていたな。二松学舎大附高では投手をやっており、他球団のスカウトも野手ではノーマークに近い感じだったのかもしれない。イチローや松井稼頭央と同じパターン。2人とも投手ではあまり大したことはないけど、野手での潜在能力を買われてのプロ入りやった。イチローは甲子園に出場したけど、秋広の場合はコロナの影響でスカウトにアピールする機会も少なかった。野手としての能力の高さを見抜いた、巨人のスカウトのお手柄やね。

 秋広が出てくる前まで、日本人野手の最高身長は僕も縁がある身長194センチ、元オリックスの高橋智やった。現役時代に一緒にやって、打撃コーチとしてもかかわった。体がデカいから、あだ名はそのまま「デカ」。2001年に引退してから随分と経つけど、やっとデカよりデカい日本人野手が現れた。高橋智もやっぱり高校時代は投手で、阪急でも最初はピッチャーでスタートした。でも投手では2年で見切りをつけられ、野手に転向。手が大きすぎたためボールをうまく握れずに、コントロールが悪かった。硬式のボールを6つ握れるほどの大きな手をしていたから。

 僕が88年に引退して打撃コーチとなった時、上田監督から今のオリックス監督の中嶋聡と高橋を「一人前にしてくれ」と頼まれたことがある。高橋はリーチが長いから外角の球は多少ボールでもバットが届いて、逆方向の右翼席にも放り込むパワーを持っていた。弱点は内角やった。手が長い分、どうしても窮屈になってしまう。内角高めのさばき方を覚えさせるために、とにかくバットを振らせた。きれいに打ち返さずとも、ファウルで逃げられるようになるだけでも全然違う。92年には打率2割9分7厘、29本塁打の成績を残した。当時25歳とまだ伸び盛りやったけど、結局それがキャリアハイの成績となった。度重なる故障にも泣かされて、振り返れば、もったいない野球人生やった。

 秋広もこれからマークが厳しくなると、間違いなく内角攻めが待っている。これをどう克服するか。変化球への対応は慣れればできるはず。イチローも入団してきた時から光るモノを持っていたけど、秋広も特別なモノを感じるし、ケガだけは気をつけてほしい。

 阪神ドラ1の佐藤輝明も、とてつもない打球の飛距離を誇る末恐ろしいルーキー。近い将来、佐藤輝と秋広が阪神と巨人の4番を張るようなライバル関係になれば、伝統の一戦が盛り上がることは間違いない。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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