かのマルクス主義の生みの親、カール・マルクスは主著の1つ「共産党宣言」の冒頭で、「ヨーロッパに幽霊が出る——共産主義という幽霊である」と記したが、今、大阪で幽霊が出ている。「大阪都構想」という幽霊だ。
「2月25日に大阪府議会が開会しましたが、最大の注目点は何といっても吉村洋文府知事から提出された『広域行政一元化条例』です。というのも、この条例は実質的な大阪都構想の焼き直しだからです」(大阪市政関係者)
どういうことか。まず条例の中身を簡単に言えば、大阪市の都市計画や大型開発などの権限と財源を府に預ける形で1本化するというものだ。そして預けられた権限と財政は府のそれと併せて、「副首都推進局」という部署がその中身を検討する。推進局は府知事が本部長を務め、府と市から選ばれたエリート職員と特別顧問などの100名のスタッフで形成される。この部署がまた特別で、府と市から浮いた形で存在するので、府・市の両議会の干渉を受けない。だから現状で言えば、大阪での大型都市開発プロジェクトは吉村府知事の直轄領になることを意味する。
「この条例への賛否は別として、常識的に言ってあまりにもあこぎな悪あがきと言われても仕方がないでしょう。昨年11月に2度目の住民投票で都構想が否決された際、これを推進してきた吉村知事は自分の任期中に再度住民投票を行うことはないとし、松井一郎大阪市長に至っては、市長の任期終了と共に政治家を引退すると語ったくらいです。だから今回の一元化条例は、自分らが首長の間に、都構想のキモとなる部分だけは実現させてしまえという意図がアリアリなんですからね」(前出・市政関係者)
大阪都構想は、大阪市を廃止して24ある区を4つの特別区に再編するというもの。そして大阪市の広域行政は府に統合するというものだった。表向きは、特別区への統廃合で身近な生活サービスの向上を図るというものだが、反対派からは、大阪府が市をM&A(買収)でその権限を吸い上げる方策などとも呼ばれた。その肝心な部分を、今回は条例案で実現してしまおうというわけだ。
「もし条例が成立すれば、市からは大規模行政の権限が失われます。大阪市って県と同等の権限を持つ政令指定都市なんですよ。これって地方自治の否定ですよ」(都構想に反対した大阪市民)
吉村知事は条例案を提出した理由として、「万博の成功」、「カジノ誘致」などを掲げる。確かに万博と、同じ土地に建設されるはずのカジノを成功させるためには、会場と直結するうめきた2期整備事業や大阪駅から関西国際空港へのアクセスを短縮するなにわ筋線の整備、会場への高速道路の延伸などの交通インフラ整備事業は、知事直轄で意のままに進めたいところだろう。そしてもともとはカジノ業者にも事業費負担させるつもりだった目論見がコロナのせいでほぼ吹っ飛んでしまったのだから、新たな財源が必要になる。だから、大阪市のサイフを取り上げてしまおうというわけか。
「条例案が公表されたのは2月17日で、一般から意見を募るパブリックコメントはわずか4日後の20日に締め切るという駆け込みぶり。抜け穴的な手法は上手いこと考えたなと思います」(前出・市民)
それにしても、前回の住民投票といい今回の条例案といい、コロナで大変な時にぶつけなくてもいいとも思うのだが…。
(猫間滋)