世界の福本豊〈プロ野球“足攻爆談!”〉阪神・佐藤輝は史上2人目の“福男”

 盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!

 やっぱり、並のルーキーじゃない。阪神のドラフト1位の佐藤輝明が、実戦段階に突入した沖縄・宜野座キャンプでアピールを続けている。2月9日の日本ハムとの練習試合では、右越え2ランを含む3安打。初めての対外試合で鮮烈なデビューを飾った。

 紅白戦の時から感じていたけど、2ストライクに追い込まれてからも簡単には空振りしない。変化球にタイミングを外されてもファウルで逃げることができる。ホームランか三振かという荒っぽいタイプではない。近大時代は柳田2世と評判やったけど、それどころか、ギータの入団したての頃より確実性がある。

 普通は初めてのキャンプで自信を喪失するものやけど、佐藤の場合は全くそういう感じがない。練習でもそうやけど、実戦になっても浮ついたところがなく堂々としている。逆にプロの先輩のほうが、佐藤のフリー打撃の打球を見て度肝を抜かれたと思う。阪神で宜野座球場のバックスクリーンを越す打球を打てる打者はほかにいない。佐藤からすれば、先輩らは大したことないなと思ってもおかしくない。

 まだ今は、コーチは絶対にフォームをいじったらアカン。内角の速い球を打てないのでは、という指摘もあるけど、気にすることはない。誰でも苦手なコースはある。イチローでさえ、日本シリーズで野村監督率いるヤクルトの内角攻めに苦しみ、翌年のキャンプで徹底的に内角打ちの練習をして克服した。佐藤も壁にぶち当たったら自分で考えて、対応していくようになるはず。そのためには2軍ではなく、1軍でエース級と数多く対戦させたい。

 これだけのものを見せつけられたら、矢野監督も開幕から使わん手はない。あとはポジションをどうするか。外野の3つの定位置は、新外国人のロハスの来日が遅れ、近本、サンズ、糸井となるのかな。一塁と三塁も大山やマルテがいる。それでも佐藤は内、外野ともに守備を無難にこなせるし、無理矢理にでも出場機会をつくっていくべき。

 実は今年1月上旬に佐藤とは偶然、出会っていた。自宅近くの西宮市内のホームセンターに棚を買いに行った時、大きな若者が近づいてきて礼儀正しくあいさつされた。

「今度、阪神タイガースに入団しました、佐藤輝明です」

 入寮直後で、部屋に必要なものをいろいろ買いそろえていたようや。「頑張りや」と励ましたけど、よく僕に気づいたなと感心した。球場ならともかく、プライベートやったから、気付かんふりをしてもおかしくない。それをパッと反射的にあいさつしに来たのは、人間的に好感が持てる。

 開幕前の新人に球場以外であいさつされたのは、近鉄の大塚晶文に続いて2人目。大塚が近鉄ドラフト2位で入団したのは97年やから、20年以上も前の話や。近鉄の宮崎・日向キャンプを取材したあと、時間があったのでパチンコでも打とうと町を歩いていた。すると、大きな若者が走ってきて「近鉄に入団した大塚晶文と申します」とさわやかに頭を下げた。大塚は1年目からセットアッパーとして結果を残した。その後、メジャーでも活躍し、第1回のWBCの胴上げ投手にもなった。

 僕の名前には「福」がついているし、縁起はいいはず。佐藤も大塚と同じようにプロの世界で成功する匂いがする。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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