西日本の人はあまり馴染みはないかもしれないが、関東の首都圏、とくに横浜でシウマイと言えば崎陽軒だ。シュウマイではない。崎陽軒では焼売のことを「シウマイ」と言うのだから。
そんな、「シウマイ弁当」やシウマイがおかずとして入っている幕の内弁当などが圧倒的主力の崎陽軒は、新幹線で食べる駅弁といった、旅先で見かける駅弁のイメージが強い。なぜなら崎陽軒は横浜駅(現・桜木町駅)の売店が発祥だからだ。だから、委託先も含めると地元・神奈川、東京、千葉、埼玉の1都3県でおよそ190店ほどを展開する先も、駅構内や駅ビル、駅近くの商業施設が中心だった。だが今後は、街中や郊外を車で走っている時に目にすることが多くなりそうだ。
「コロナ禍で主要ターミナル駅などの店舗は閑古鳥が鳴いている状況。となれば駅弁がウリの崎陽軒も打撃を受けることになります。そこで同社では、昨年秋以降から旅客先にとらわれない独立型店舗の出店を始め、既に4店舗を出店しています。いずれも幹線道路に面したロードサイド店です」(経済ジャーナリスト)
20年9月に横浜市の菊名に1号店をオープンさせ、11月に横浜市旭区に環2市沢店、12月に東京都練馬区に光が丘IMA店、東京都杉並区の荻窪駅北口店をオープンさせている。環2市沢店の「環2」とはもちろん環状2号線道路のこと。いずれも車での持ち帰り、駅前店だと帰宅する人の持ち帰り需要を取り込もうという出店攻勢だ。
もともとは弁当が主力だから今のテイクアウト、内食需要には適っている。しかも、冷めてもおいしいのが同社のウリなだけに、今の時代にまさにピッタリの商品と言え、期待が持てる。
ただ、一抹の不安もないとは言えなさそうだ。
「かつて崎陽軒は全国展開を図ろうとして大阪に工場を作るという考えもあったそうです。ところが、全国のスーパーなどの小売店で真空パックのシウマイを販売したところ、客から『横浜名物のシウマイが近所で売っている。土産物の意味がないじゃないか』といった声が寄せられるなどして諦めた経緯があります。そもそもシウマイを売り出したのも、初代社長が横浜に名物がなかったので名物となるものを作りたいと思ったからでした。そこで全国展開を諦め、売り場も減らしたので一時は売り上げも相当減りましたが、ナショナルブランドでなく偉大なるローカルブランドを目指すとの方針の下、本拠地の神奈川周辺の出店に絞ったところ、それが奏功して売り上げを回復させたという経緯があるからです」(前出・ジャーナリスト)
だから神奈川中心の“地域”にはこだわるのだろうが、どこでも買えてしまうことになっては地域限定という“名物”が持つ優位性を失うというジレンマを再び抱えることになるかもしれない。
だがいずれにせよ、ロードサイドの飲食店と言えば、焼肉やしゃぶしゃぶ、回転すし、うどんなどのチェーン店がお馴染み。そこに崎陽軒の看板が視界に飛び込んでくるというのだから、神奈川県民の間では普段の“日常食”としていっそう定着するかもしれない。
(猫間滋)