盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!
プロ野球の春季キャンプが非常事態宣言の中、無観客でスタートした。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、ファンがスタンドから応援することはできない。例年なら特守でへばった選手に励ましの声が掛かったり、打撃練習のサク越えにも拍手をもらえていた。静かなキャンプは選手にとっては張り合いがない。それでも全球団ともCS放送でキャンプ中継がある。自宅のテレビで見ているファンに元気を与える姿を見せてほしいね。
僕が現役時代の阪急は、高知でキャンプを張っていた。平日のスタンドは近所のおっちゃんぐらいしかいなかった。もちろんキャンプのテレビ中継なんて、昔は考えられなかった。今のルーキーはテレビ中継で予備知識を得られるから、余裕があるんと違うかな。僕が新人の時はどんな練習スケジュールか想像もつかなかったから、精神的にもきつかった。アップも長いし、外野の個人ノックなんて毎日1時間ぶっ通し。プロのキャンプはこんなに練習するのかと驚いた。
でも最初の1クールを終えると体が慣れて、平気になった。練習スケジュールを見ながら、いい意味で手の抜き方も覚えた。ずっと気を張っていたらパンクしてしまう。ドラフト7位の新人は周りからも注目されないし、楽やった。その点、鳴り物入りのルーキーは常に見られているし、大変やと思う。ホテルの自室に帰ったら、どっと疲れが出るやろね。でも今は各球団とも1人部屋が当たり前の時代。誰にも気兼ねなく休めるのはいいかもしれん。
僕らの頃は1軍の主力になっても1人部屋はなかった。ルーキーの時は3人部屋やった。1歳上の当銀さんと、2歳上の正垣さん。2人とも僕と同じ外野手やった。優しい先輩で、8畳ぐらいの部屋に3人でおっても、嫌な思いはしなかった。「飲みに行こか」と言われて、どこに行くのかとついていくと、なんと喫茶店やった。酒を飲まない先輩だったので、コーヒーを飲みながら、いろんなことを教えてもらった。松永の1年目は2人部屋で面倒を見ることになって、毎朝コーヒーを入れてもらったことなんかも思い出す。
キャンプではグラウンド上の練習だけでなく、宿舎で先輩たちと過ごす時間も勉強になった。一応門限はあったけど、阪急はないも同然やった。酒が好きな人はネオン街に繰り出していた。次の日に練習さえしっかりすれば、ガミガミ怒られなかった。ひとつだけ、阪急のキャンプで理不尽だったのは、上田監督が自分が嫌いなゴルフを禁止にしたこと。僕はどっちでもよかったけど、ゴルフ好きの選手はブーブー言っていた。パチンコや麻雀はOKなのに、ゴルフだけアカンのは確かに筋が通っていない。ゴルフは朝が早いから、休日の前の日に遅くまで飲み歩くこともなくなる。軽い運動にもなるし、健康的な休日の過ごし方やと思う。
今年のキャンプでも、休日にはほんまなら自由にゴルフぐらいやらしてあげたい。PCR検査を何度も受けさせられて、休日も部屋に籠もるだけでは気が滅入ってしまうやろ。テレビをつけても面白い番組をやってないからね。外食も禁止になるみたいやし、飲みに出かけることもできない。ほんまに精神的にきつい1カ月になると思うけど、ケガだけはしないよう、みんな無事に乗りきってほしいね。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。