世界の福本豊〈プロ野球“足攻爆談!”〉「周東よ、契約更改の悔しさを晴らせ」

 盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!

 今年の楽しみのひとつはソフトバンク・周東の盗塁数やね。新聞などで見ると「60」を目標に掲げているけど、ちょっと控えめすぎる。昨年はスタメン78試合で48盗塁(シーズン50盗塁)。そのペースで143試合に換算すれば「88」となる。100盗塁とは言わないまでも、85年の広島・高橋慶彦以来となる70盗塁はクリアしてほしいな。

 周東には昨年の契約更改の悔しさもバネにしてほしい。2000万円から4000万円に倍増やけど、1回目の交渉ではサインしなかった。「走塁の価値をもっと高めたい」と球団に今後の査定ポイントの改善を求めたという。その気持ちはよくわかる。周東が塁に出れば、単なる盗塁数だけでなく、目に見えない貢献がたくさんある。投手は打者への集中が甘くなって失投が多くなるし、打者も球種を絞りやすい。ソフトバンクの査定方法はわからないが、掘り下げて評価してもらえると、選手は意気に感じる。

 阪急で僕の後ろの2番を打った大熊さんがそうやった。前年3割をマークした打率が2割3分台に落ちて、大幅ダウンを覚悟して契約更改に臨んだところ、予想外の昇給。2番打者として盗塁を助けたり、右打ちの進塁打が認められたという。大熊さんはますます「2番の仕事」に徹し、僕もそのおかげで盗塁を増やすことができた。

 話を周東に戻すと、プロは「3年やって一人前」の世界やから、3年続けて成績を残せば、心配しなくてもおもしろいように給料は上がっていくはず。今の時代は一気に何倍も上がることがあるから、ほんまにうらやましい。ちなみに僕の時は1年目が180万円で、2年目は190万円。タイトルを獲って迎えた3年目が380万円。2年連続タイトルで4年目が760万円。世界記録の106盗塁で5年目が980万円と上がっていった。3年連続盗塁王でやっと当時の一流の証しやった1000万円プレーヤーに近づいたことになる。今の1億円プレーヤーと同じぐらいの立ち位置かな。周東も70盗塁したら、来オフには一気に1億円に到達してもおかしくない。

 実は僕はプロに入ったあとより、入団前の給料に関して球団に強く要望した。ドラフト7位の選手に阪急が提示した条件は、契約金500万円の年俸150万円。当時、ドラフト1位選手は契約金1000万円の年俸180万円が最高条件やった。その数字で考えると妥当な額となるけど、こちらはプロ入りに固執していなかったから「その条件では行きません」と強気に出た。会社の上司からも「ほんまにお前のことを欲しがっていたら出してくれる。契約金よりも翌年以降のベースとなる年俸は大事」とアドバイスされたこともあって、球団に上乗せを要求すると、契約金750万円、年俸180万円となった。年俸は一緒に松下電器からドラフト2位で入団した加藤秀司より多くなった。

 当時の松下電器の月収は3万円やったから、30万円も条件を上乗せしてくれたのはうれしかった。でも、最初の提示どおりに150万円なら、本気で入団拒否をしようと思っていた。あの時、阪急が渋っていたら、その後の人生はどうなったかわからない。

 今年もコロナ禍が続いて先行きは見えないけど、プロ野球はいろんな夢や感動を与えてくれるシーズンであってほしい。1年間ケガせず、走れ、周東!

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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