「麒麟がくる」を10倍楽しむ!15代将軍・足利義昭が生きた室町時代を徹底解説

 NHK大河ドラマ「麒麟がくる」が佳境を迎えている。劇中では、足利13代将軍義輝(向井理)が没し、15代義昭(滝藤賢一)と織田信長(染谷将太)が対決姿勢をあらわにしようとしている。再脚光を浴びる足利15将軍のルーツと室町の時代を徹底解説する。

「室町時代は誰が勝者で敗者なのかが不明で、後半は下剋上の戦国時代に突入するまさにカオスの時代。ハマッたらどっぷりになってしまう沼中の沼の魅力がある」

 そう語るのは「ヘッポコ征夷大将軍」などの著書がある、れきしクンこと歴史ナビゲーターの長谷川ヨシテル氏。「麒麟がくる」では室町時代の末期が描かれ、今、室町時代全般への関心が高まっているという。とはいえ、南北朝や戦国以前の室町時代を描いた大河ドラマは、尊氏を真田広之が演じた「太平記」(91年)、日野富子を三田佳子が演じた「花の乱」(94年)と、意外に少ない。なぜだろう。歴史ドラマに詳しいライターの近藤正高氏が分析する。

「明治維新から戦前までは、後醍醐天皇と対立の末に北朝を擁立した足利尊氏を逆賊と見なす史観が支配的でした。戦後になっても尊氏や北朝に言及することにタブー感が残り、テレビドラマや映画でも避けられてきたのでしょう」

 現在、「麒麟がくる」に合わせて、BSプレミアムや配信で、その「太平記」と「麒麟がくる」が同時並行で放送されている。室町時代の始まりと終わりを見ることができるのだ。「麒麟がくる」の脚本は、かつて「太平記」の脚本を担当した池端俊策氏によるもの。「麒麟がくる」と「太平記」を併せて見ることで、室町を知る絶好のチャンスになると、近藤氏は言う。

 さて、室町時代とはいったいどんな時代だったのか。

「室町時代は、ひと言で言えば、動乱と戦争の時代でした」

 こう指摘する歴史家の河合敦氏は続けて、

「鎌倉時代、モンゴルが攻めてきた元寇で鎌倉幕府は弱体化。その後、後醍醐天皇が現れ、今なら幕府を倒せると、倒幕の旗を掲げます。足利尊氏は鎌倉幕府を裏切り、後醍醐天皇について六波羅探題(ろくはらたんだい・京都に置かれた幕府の重要出先機関)を攻撃。時を同じくして新田義貞が大軍を率いて鎌倉を攻め、鎌倉幕府は尊氏と義貞という2人の武将の裏切りによって滅びます。その後、後醍醐天皇が直接政治を司る「建武(けんむ)の新政」を行うのですが、武士たちの活躍で政権を取ったにもかかわらず、恩賞は公家に厚く、武士に少なかった。そのため武士たちの不満が高まり、尊氏は後醍醐天皇の政権を倒して持明院統(じみょういんとう)の光明(こうみょう)天皇を立て、室町幕府を開くことになります。後醍醐天皇は奈良吉野に逃れて、そのまま南朝を興す。こうして、京都の北朝と奈良の南朝に分かれ、朝廷が2つ並び立つことになるのです」

 その後、後醍醐天皇が崩御し南朝の力はいったん衰えるも、今度は室町幕府内で、尊氏の弟の直義(ただよし)との、いわば兄弟ゲンカが発生。これを観応(かんのう)の擾乱(じょうらん)と呼ぶ。

「直義は正当な朝廷は南朝だということで南朝に降伏、尊氏も南朝と和を結びますが、抗争は続き、南朝側は京都に何度も攻め込んで、以後60年間も、この混乱は続くことになります」(河合氏)

 この天皇や将軍の兄弟同士が骨肉の争いを演じた、室町時代の混乱の原因はいったい何だったのだろう。

「簡単に言えば、身内同士の土地・財産争い。それまで武士たちは嫡子=長男と兄弟たちの分割相続でしたが、この頃には単独相続に変わり、兄弟の内で最も優秀な人間しか財産を継げなくなった。そうなると、兄弟間で争うことになる。結果、弟が南朝についたのなら兄は北朝につこうとなって、南朝の利用価値が高まったのです」(河合氏)

 人間というのは、地位や金、なによりも食い扶持になびいていくのは、今も昔も変わりない。公家や武士たちの兄弟間の財産争い、相続ならぬ「争族」が、この室町時代の争いのもとだった。令和を生きる私たちにとっても身につまされる話ではないか。

河合敦(かわい・あつし)65年、東京都生まれ。多摩大学客員教授。早稲田大学非常勤講師。歴史家として数多くの著作を刊行。テレビ出演も多数。主な著書に「早わかり日本史」(日本実業出版社)、「大久保利通」(徳間書店)、「繰り返す日本史二千年を貫く五つの法則」(青春新書)など。

長谷川ヨシテル(はせがわ・よしてる)86年、埼玉県生まれ。漫才師としてデビュー後、歴史ナビゲーターとしてイベントや講演会などに出演。「れきしクン」のニックネームでタレントとしても活躍。著書に「ポンコツ武将列伝」「ヘッポコ征夷大将軍」(いずれも柏書房)など。

近藤正高(こんどう・まさたか)76年、愛知県生まれ。「クイック・ジャパン」(太田出版)の編集を経て、フリーのライターに。ドラマレビューを手がけ、大河ドラマについての執筆も多い。著書に「タモリと戦後ニッポン」「ビートたけしと北野武」(いずれも講談社現代新書)などがある。

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