新型コロナウイルスの累計感染者数は750万人、死亡者数も21万人と、いずれも世界最多の“感染大国”となったアメリカ。新型コロナウイルスは刑務所の中にも侵入し、多くの受刑者が感染しているという。
「カリフォルニアにあるサン・クエントン州立刑務所に収監されている死刑囚からの手紙には、『26人が死んだ』と記されていました。ニュースによればつい一週間前にも27人目がコロナで亡くなったようです。受刑者の感染者数は、7月の時点で既に2000人(そのうち1200人が発症)とされ、これは3000人を収容するサン・クエントンの受刑者人口の3分の2にあたります。3月終わりに121人もの受刑者を同じカリフォルニア南部のチノ刑務所から無検査で収容した結果、刑務所内で爆発的に感染者が増えたとのことです」
こう語るのは桐蔭横浜大学で教鞭をとるかたわら、日米の凶悪犯罪を調査・研究してきた阿部憲仁教授。アメリカの大学に赴任していた頃から、名だたる大量殺人鬼と面会を重ね、帰国後も文通で死刑囚たちと交流を続けてきた。
「コロナ禍で何人もの死刑囚から手紙を受け取りました。ある死刑囚は淡々と日常を綴っていて、文面の最後に『じつはコロナに感染した』と書かれていたんです。その時は焦りましたよ。なんでその事を手紙の最初で書いてくれないのかと。封筒内でウイルスが生きている可能性もありますから。一方、有名なプリズンギャングのリーダーの手紙には、冒頭に『この手紙を消毒してください』と書かれていたのが印象的です。現在やり取りしている10数名全員、刑務所はロックダウン中で、必ずコロナの現状について何かしら書いています。それだけ塀の中ではコロナが恐怖に感じられるということでしょう」
1987年から1998年にかけて黒人ギャングの巣窟として知られるサウスセントラルの自宅から1~2kmの範囲で、15名もの女性を殺害し、サウスサイド・スレイヤー(南LAの殺人鬼)と恐れられたチェスター・ターナー(写真左※右は阿部氏)。彼もまた阿部氏が交流を続ける死刑囚の一人だ。
「チェスターもコロナに感染した一人です。隣の独房に収監されている受刑者の感染が発覚し、彼も息苦しさを覚えて検査をしたところ陽性が確認されたとのことでした。彼はもともと喘息持ちでしたが、2週間ほどで治ったようです。2種類の吸入器を使っていたので救われたと書いてありました。刑務所ではとにかく検査だけは頻繁に行うようで、アボットと呼ばれる抗体検査を用いれば陽性で5分、陰性なら13分で結果が出ると書かれていました」
塀の中にウイルスが持ち込まれれば逃げ場はない。受刑者たちが神経質になるのも無理はないが、コロナ感染防止策は万全とは言えないようだ。
「テキサスの刑務所から届いた手紙によれば、食事を盛りつける食器が、最近になって紙のトレイに変わったそうです。使い捨てにすることで感染リスクを抑える狙いだとは思うのですが、職員の衛生意識が著しく欠如しているようで、前述のプリズンギャングのリーダーからの手紙には『ナイジェリア系の看守がゴホゴホと咳をして、鼻クソをほじりながら飯を運んでくる』と記されていました。マスクが提供される刑務所もあるようですが、彼は自作のバンダナマスクで頑張っています。もっとも大きいのは、塀の中ではアルコール消毒液が使えないという点。酒に飢えた輩が多いので、受刑者の使用を禁止にしているのでしょう。とある発酵法によってアルコールが作れることから男性受刑者の施設ではケチャップの使用すら禁止されているほどですから。とはいえ、長期の節制によって、内臓が健康的に保たれているのか、全体的には感染者の死亡率は塀の外よりも低いという印象を受けます」
粛々と刑の執行を待つ死刑囚も“獄中クラスター”の悪夢にうなされているのだろうか。
(編集部)