「バチが当たったのよ」ホームレス遺体発見現場で聞いた“台風一過”の罵声

 ライター兼イラストレーターの村田らむ氏はホームレス取材を続けて20年以上になる。昨年、多くのホームレスが掘っ立て小屋を建てて暮らす多摩川河川敷を大型台風が直撃。そこで見た驚愕の光景とは?

 昨年10月、非常に大型の台風19号が関東に上陸した。多摩川の水位は上がり、場所によってはダムが決壊して住宅に被害が出た。

 多摩川河川敷は完全に水中に没した。

 多摩川河川敷は、僕がホームレス取材で20年以上訪れている場所だった。

 河川敷はパッと見、ゴルフ場や野球場などとして運用され、きれいに整備されている。しかし葦の向こうにはホームレスの村が広がっていた。

 ホームレスが小屋を作ることができる場所は年々、少なくなってきている。そんな中、多摩川などの河川敷は小屋を建ててもうるさく言われないオアシスのような場所だった。

 台風一過の10月13日の昼頃、河川敷を訪れた。一面、泥水だらけになっていた。ゴルフの打ちっぱなしの設備は全部倒れていて、流れてきた草や枝が折り重なってからみついている。

 ホームレスの小屋が建てられている林へ抜ける道は、完全にふさがっており、近づくこともできなかった。

 少し、あっけにとられたあと、河川敷沿いで休んでいた男性に話を聞いた。男性は高い場所に小屋を建てていたので、ギリギリ壊されずに済んだという。

「かなり上の方まで水が来たよ。ほら、ちょうどそこまで水が上がってきた」

 と、堤防のかなり上の方を指差した。てっぺんまで1メートルもないくらいところまで、水が上がってきていたのだ。
 溢れていても全くおかしくなかった。

「前々日くらいから国土交通省職員がやってきて、気をつけてくださいって言っていた。俺らもさすがに早めに逃げたよね。

 役所の人は『避難所があるから来てくださいね』って一人一人声掛けしていたよ。俺は行かなかったけどね。行ったって嫌われることわかってるから、行かないんだ」

 当時、都内のある避難所がホームレスを受け入れなかったとしてバッシングされていた。だが、少なくともこの周辺の避難所ではそのようなことはなかったようだ。

 泥で汚れたゴム長靴を履いて河川敷を散策している男性が、悲壮な表情を浮かべて、

「一人、台風の後から見当たらないんだよね。近くに住んでる人だったんだけど。ずっと探してるんだけど見つからない……」と話してくれた。

 野宿生活をしている人が流されても、本当にいなくなったのかどうか確かめようがない。だから、なかなか捜索もしてもらえない。

 後日、その男性かどうか確証はないが、ホームレスの男性が遺体で発見された。

 ホームレスの小屋が並び建っていた林の中へは、泥が深くてとても入っていけなかったため、仕方なく橋の上から見下ろしてみた。

 ところどころに青いビニールシートなど残骸が見えるが、ほとんど全て流されてしまったようだ。ちなみにここは、現在もそのまま放置されている。

 ずっと取材をしてきた場所が、無残な状態になっているのを呆然と眺めていると、高らかな笑い声が聞こえてきた。

「わはははは、こいつらバチが当たったのよ!! 勝手に一級河川に住んで!! 全然かわいそうじゃないぞ!! むしろざまあみろだ!!」

 80歳前後であろうおじいさんが、口角泡を飛ばしながら怒鳴っていた。

 話を聞くと、台風でホームレスの小屋が流されたのを確認するために、わざわざ自転車に乗ってやってきたのだという。普段から、河川敷にホームレスの人たちが住むのを憎々しく思っていたのだという。

 被災したばかりの人たちに対し、強烈な悪意を放っている老人を見て、心の底から怖いと思った。

 今年は、台風の被害が出ないことを心から祈る。

(写真・文/村田らむ)

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