マスク姿の3人組が暗闇にまぎれ、子牛の両脚をつかんで車の中に押し込んでいく……防犯カメラがとらえた衝撃的映像が各メディアで放送されたのは8月25日のことだ。
映像は、栃木県足利市の牛舎で22日から23日朝にかけて撮られたもので、牧場経営者が確認すると、子牛3頭が盗まれていたことがわかった。
足利市ではこの3カ月間で同じ黒毛和牛の子牛3頭が盗まれており、被害総額は275万円にも及ぶというが、コロナ禍の中、栃木や群馬など北関東で家畜の盗難被害が相次いでいる。全国紙社会部記者が語る。
「狙われているのは、いずれも子牛や子豚ばかりで、子牛は10頭以上、子豚にいたってはなんと670頭を超えていると言われますからね。現段階ではすべての犯行が同一犯によるものなのかどうかわかりませんが、被害件数を考えると、とても個人の犯行とは思えない。当然、警察もグループによる組織的な犯行を視野に捜査を進めているようです」
関係者によると、被害に遭った子豚は、いずれも扉一枚で仕切られた「ユニット型」と呼ばれる簡易型豚舎で飼育されたもので、入り口付近には豚のものとみられる血痕が付着していたケースもあったという。
「いくら出し入れが簡単な簡易型豚舎とはいえ、豚も生き物。捕獲される時には当然暴れるはずです。しかし、犯行は手際よく、手馴れている印象を受ける。つまり、農家、あるいは外国人窃盗団など、プロの仕業だということです。なんでも、いま中国では豚の価格が高騰しているため、盗んだ豚を中国に持ち込むための犯行では、という噂がまことしやかに流れています」(畜産関係者)
たしかに中国では一昨年、アフリカ豚コレラ(ASF)が中国全土に蔓延し、感染が疑われた豚1億頭以上が殺処分されたことで、豚肉の供給量がひっ迫。さらに米国との貿易摩擦激化により、ブタのエサとなる米国産大豆に高い制裁関税を課され、豚肉の市場価格が急騰。そこで、養豚業者を騙して健康なブタを安く買い叩く犯罪集団「炒猪団(ブタ転売ヤー)」の横行が社会問題化するようになったという。
「彼らの手口は大胆かつ巧妙で、感染、未感染に関わらず、豚舎から豚を盗み出して、他の地方に移動してから売り飛ばすというもの。なかには、感染豚の死骸を豚舎の近くに放置し、多くの豚をコレラに感染させておき、飼育者に『おたくの豚もアフリカ豚コレラに感染しているはずで、もう売れないだろうから、俺たちが買い取ってやる』と声をかけ安値で引き取るというケースもあるのだとか。ところが、炒猪団による被害が急増したことで、さすがに政府も黙っているわけにはいかなくなった。そこで、国家農業農村部が炒猪団に関する情報提供、あるいは密告した場合は報奨金を出すとして、摘発に力を入れるようになったんです。結果、中国国内で仕事がしにくくなった炒猪団が、昨年末あたりから国外に出たという情報もあり、その残党が日本へ流れているのではないかと噂されているんです」(前出・社会部記者)
むろん、現段階で犯人像については明らかになっていないが、もし、この噂が事実だとしたら……。ともあれ、一刻も早い犯人逮捕を願うばかりだ。
(灯倫太郎)