北朝鮮が韓国との「南北融和」の象徴である連絡事務所を爆破したのは6月16日のことだった。北朝鮮による武力的挑発行為で、もはや両国の亀裂は決定的となったが、現在の日韓関係を考えると、まさに「泣きっ面に蜂」とも言える状況かもしれない。
2012年の韓国大統領による竹島上陸以降、天皇陛下謝罪要求、対馬仏像盗難事件、慰安婦像設置、元徴用工問題、レーダー照射問題、WTO紛争、GSOMIA破棄通告……とこじれにこじれている日韓関係。その中でも最近、特に火種になっているのが、元徴用工訴訟の現金化問題だ。
事の経緯を少し説明すると、まず徴用工問題とは、第2次世界大戦中に日本企業が韓国人の元徴用工らに対して軍需工場で強制労働させたと、韓国側が主張している問題。しかし、この問題を巡って日本政府は、すでに1965年の日韓基本条約と日韓請求権協定で解決済みとの立場をとっており、また強制であったか否かを巡っても議論が分かれている。
そんな中、18年に韓国の最高裁は、新日鉄住金(現日本製鉄)に対して、元徴用工らへの賠償を命じた。この判決により、元徴用工の原告側は、日本製鉄が韓国の鉄鋼大手ポスコと合弁で設立したリサイクル会社「PNR」の株式約19万4千株を差し押さえていた。そして先日6月3日、韓国の大邱地裁浦項支部が財産差し押さえ命令の「公示送達」(裁判所の決定や命令を公示することで送達したとみなす手続き)を決めたことで、夏以降に現金化(9000万円相当)される可能性が出てきたのだ。
もし、韓国側が現金化を強行すれば、日本政府もただ手をこまねいているわけにもいかず、報復措置に出ることが予想される。
「昨年、日本政府は韓国に対してフッ化水素、フッ化ポリイミド、フォトレジストという半導体製造に必要な3品目の輸出管理を強化しました。半導体産業は韓国経済の稼ぎ頭ですが、その技術のほとんどを日本からの輸入に依存しています。輸出管理強化は韓国側にとって死活問題ですが、日本が持つ報復シナリオは他に100通り以上あるといわれています。関税引き上げや対韓直接投資規制、日本国内の韓国企業の資産差し押さえ、韓国人へのビザの発給停止など様々です」(経済ジャーナリスト)
それらの制裁のほとんどは、韓国経済にとって致命的となる可能性が高い。なぜなら、韓国の経済構造は、先述した日本の「技術」に加えて、「貿易」「財閥」「外資」などへのいびつな“依存体質”で成り立っているからだ。
「韓国のGDPのうち貿易依存度(輸出額+輸入額)は約70%にのぼり、貿易産業を担っているサムスンや現代自動車など財閥企業の売上はGDPの4割を占めています。しかし、そうした韓国企業も、日本のお墨付き(信用)がなければ海外の企業と取引することができません。それは韓国の銀行の信用度が低いためです。韓国の銀行に代わって、日本のメガバンクが韓国企業に信用状を発行しているおかげで、他国は『日本の銀行が信用状を出している企業なら安全だ』ということで取引しているのです」(前出・経済ジャーナリスト)
そして韓国の企業や銀行は外資比率が高いため、このことも韓国経済の脆弱性を表している。
「たとえばサムスン電子の外国人持ち株比率は50%を超えており、また韓国の銀行の多くは、イギリスやアメリカなど外資系銀行の傘下に置かれています。97年に起きたアジア通貨危機では、これらの外資が一斉に引き上げられたせいで、韓国は経済危機に陥りました。日本との関係悪化は、再び外資の撤退に繋がりかねず、経済危機を招きかねない状況です。そしてもし、韓国側が日本資産の現金化を行えば、日本からの追加制裁は避けらず、韓国経済は崩壊の一途を辿るでしょう」(前出・経済ジャーナリスト)
元徴用工らによる現金化の強行は、韓国側にとってもはや「自爆行為」と指摘する声もある。ひと昔前までは絵空事だった“日韓断交”が、いよいよ現実味を帯びてきたのかもしれない。
(角南丈)