合戦の裏には例外なく政略結婚などで政治に利用された女性たちがいる。戦国のオンナは同盟のための人質、はたまた嫁ぎ先の情報を実家に伝えるスパイとして送り込まれたのだ。
河合氏が言う。
「浅井長政の三女で、母は信長の妹・お市の方であるお江(ごう)などは3度も嫁いで、信長の血脈を徳川家にまでつないで、三代将軍家光を産んでいますからね」
放映中の大河ドラマ「麒麟がくる」で、川口春奈演じる帰蝶(きちょう)(濃姫(のうひめ))もその典型だろう。斎藤道三の娘で信長と結婚して濃姫となるが、その時10歳から15歳。道三は「信長が噂どおりのうつけなら、この刀で寝首をかいてこい」と短刀を渡したという逸話があるくらいだから、まさに「オンナ生物兵器」同然だった。
ただ、秀吉の正室・ねねの場合は、ちょっと事情が違うようだ。房野氏によれば、
「ねねさんが安土城に土産物を持って信長に会いに行くと『秀吉ったら女好きで、私以外の女と遊んでばかりなんです』って愚痴ったんでしょうね。そしたら信長が秀吉にも読ませるようにと言って『あなたは前に会った時より、ずっときれいになった〜、あなたほどの女性はどこにもいな〜い、あの禿げ鼠にはもったいないくらいだ』みたいな礼状を送ってきた。これって、旦那のことを自分とこの会社の社長に言いつけるみたいなことで、信長も返答に困ったんだと思いますね」
政治力も性治力もあった、ねね=北政所の面目躍如といったところだろう。
河合敦(かわい・あつし)1965年、東京都生まれ。早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学(日本史専攻)。多摩大学客員教授。早稲田大学非常勤講師。歴史作家・歴史研究家として数多くの著作を刊行。テレビ出演も多数。主な著書:『早わかり日本史』(日本実業出版社)、『大久保利通』(小社)、『日本史は逆から学べ《江戸・戦国編》』(光文社知恵の森文庫)など。
房野史典(ぼうの・ふみのり)1980年、岡山県生まれ。名古屋学院大学卒業。お笑いコンビ「ブロードキャスト!!」のツッコミ担当。無類の戦国武将好きで、歴史好き芸人ユニット「六文ジャー」を結成し、歴史活動も積極的に行う。著書に『超現代語訳戦国時代』『超現代語訳幕末物語』(ともに幻冬舎文庫)、『戦国武将の超絶カッコいい話』(王様文庫)がある。