1月11日に行われた台湾の総統選では、民進党の蔡英文総統が再選を果たした。
当初は苦戦が予想された蔡陣営だったが、香港のデモの影響が大きかった。最大野党の国民党は将来的に1つの中国への統一を目指しているので、となれば台湾が次の香港になりかねない。独自路線を模索する民進党の蔡総統が過去最高の800万票を超える得票で勝利したのも納得できる。
さて、その蔡英文総統が大慌てで大晦日に成立させ、年が明けた15日に施行させたのが「反浸透法」という法律だ。「浸透」とは日本語では「工作活動」を意味する。この法律が目指すものを一言で言えば、中国が選挙などで工作員を送り込んで情報操作を行うのを排除しようというものだ。
「大慌てで法律を成立させたのは、過去に実際に工作が行われた現実が明らかになったからです。11月下旬にオーストラリアのメディアが中国の元工作員を名乗る男性の証言を掲載しましたが、そこでは、オーストラリアに亡命した元工作員が、約1年前に行われた台湾の地方選にあたってネット専門の工作チームを編成して世論誘導の工作とそのための資金提供を行ったとされています」(中国事情に詳しいジャーナリスト)
中国政府は「正真正銘の悪法」と反発を示すが、中国の浸透についてはアメリカも警戒している。米国防省情報局が昨年行った報告によれば、中国が行うこの浸透工作はアメリカ、台湾、日本で顕著に行われているという。「友好」や「文化交流」と銘打った団体が、日本のエリート層に向けて働きかけているのだと。
「オーストラリアやニュージーランドでも盛んに展開されているようで、オーストラリアでは2018年には『外国干渉防止法』という法律を成立させ、昨年には政界工作を行っていた中国人富豪の永住権をはく奪し、市民権申請も却下するという動きに出ましたが、それでも浸透は行われ、政治に金が流れ込んでいるようです」(同前)
香港や台湾は米中覇権争いに入った現在、正に政治的ホットスポット。「ゴルゴ13」のようなスパイが暗躍する諜報戦が日々、水面下では争われている。
(猫間滋)