又吉直樹、初の長編小説「人間」を語る(2)「やめろ」と全否定される新人時代

─第1部は38歳の男が20年前を振り返るという設定です。

又吉 前の2作、「火花」と「劇場」は20代の話を書いたんで、作中の人物を自分の年齢に追いつかせようというのが、自分の中のチャレンジでした。

─読み始めた時は、自分探し系のさわやかな青春小説かと思いました。ところが第1部の終わり方は、かなり残酷ですね。

又吉 特に主人公のような表現に携わる人間にとっては、かなりしんどい体験でしょうね。そこに恋愛も絡んできていますから。

─主人公は「お前の才能は偽物だ」という疑念を突きつけられます。ここまでズダボロにされるというのは、お笑いの世界でもあることですか?

又吉 ありますね。めちゃめちゃ、あります(笑)。新人の頃なんか全否定されますからね。ほとんど人格も含めて全否定ですよ。「おまえみたいなやつが、いちばんしょうもないんだよ」とか、「やめろよ、もう」とか。

─キツいですね。

又吉 毎年、何百人もの新人が芸人を目指して入って来るけど、10年後、この世界で御飯を食べていけるのは5組あるかどうか。才能のないやつは早めにあきらめさせるほうが当人たちのためだと思っているから、とにかく厳しいんですよね。

─そこは文芸の世界とは違いますか。

又吉 芸人の世界にずっといて、文芸の世界に入ってみて、こんなにも大学というものが重要視されていたり、派閥みたいなものがあるんやとびっくりしました。不思議なのは、作家たちがみんな不良ぶること。芸人の世界では、すごくダサいとされているマウントのとり方をやってますよね。

─オレも昔は悪かったんだ、とか。若手よりも、むしろベテランほどそういうこと言いますね。

又吉 昔の作家は酒を飲んで暴れたんだぞ、とか。でもそれは、誇らしげに言うことじゃないですよ。なんでそれを武勇伝みたいに言っているのか。なんか中学生のヤンキーみたいなマインドの人がめっちゃ多いな、と思うんですけど。繊細な文学をやる、ちゃんと勉強してきた人たちが、なんでそこの感覚が欠落しているのかなって。

又吉直樹(またよし・なおき)1980年、大阪府生まれ。吉本興業所属の芸人。お笑いコンビ「ピース」として活動中。15年、本格的な小説デビュー作「火花」で芥川賞を受賞。17年には2作目となる「劇場」を発表。

永江朗(ながえ・あきら)書評家・コラムニスト 1958年、北海道生まれ。洋書輸入販売会社に勤務したのち、「宝島」などの編集者・ライターを経て93年よりライターに専念。「週刊朝日」「ダ・ヴィンチ」をはじめ、多くのメディアで連載中。

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