韓国に取材に行き、友人もいるが、対日戦略で何度もゴールポストを変えるこの国にいささかうんざりしていた。失脚した尹錫悦の後任は、日本に対して非常に厳しい李在明が大統領選に勝利した。
著者は拉致問題にも取り組み、韓国、北朝鮮情報に詳しい大学教授。本書は、両国の秘密情報もたっぷりと盛り込まれて、大統領選後の韓国や北朝鮮情勢を知るために必読である。
中道派を取り込んで、大統領に当選した李で日韓関係は改善するのか。安心はできない。その理由は、李だけでなく韓国のほとんどの国民が「反日反韓史観」を信奉しているからだ。李大統領は、いつでも反日を強く打ち出すだろう。そうなると韓国国内は、現在以上に右派と左派に分裂し、日韓関係の憂鬱な時代が再び始まる可能性が強い。
ロシアとウクライナの戦争に参戦した、北朝鮮についても本書は詳しい。北朝鮮は、金正恩体制維持のために、ロシアの軍事技術力などの支援が必要で、参戦した。しかし、ロシアにとってはあくまで利用・被利用のドライな関係である。共産主義を守るなどという大義はない。ロシアは、北朝鮮兵士を弾よけに使っている。25年2月で3万2000人もの北朝鮮兵士が派遣され、そのうち死者は5000人にも上るという。ロシアは北朝鮮兵士に月給2000ドル、将校に2500ドル、死亡時には3万ドル支払う。ロシアにとって金で買える北朝鮮兵士は消耗品なのだ。悲劇的なのは、これらの報酬は兵士に渡らず、すべて金正恩の懐に入り、核開発に使われている。
金正恩がなぜ核開発に執着するのか、それは体制維持に加え、韓国の武力併合を目的とした「奇襲南進戦争」のためであるという。
これは第2次朝鮮戦争のことだ。朝鮮戦争に勝利できなかった原因は在日米軍のためだと分析し、第2次朝鮮戦争では日本にミサイルを撃ち込み、また、テロなどによって在日米軍基地を使用不能にする。そして、大陸間核ミサイルでアメリカを脅迫し、援軍を阻止し、韓国を武力併合するというものだ。
北朝鮮はウクライナに派兵し、多大の犠牲を払いながらも実戦を学んでいる。トランプがアメリカ大統領になり、在韓米軍などの撤退をちらつかせたり、金正恩と話し合う素振りを見せたりしている。金正恩は、国際情勢の不安定化は自分たちに利があると判断すれば、自壊する前に奇襲をかけてくるかもしれない。そうなると日本は火の海と化すだろう。本気でこの事態に備えねばならない。
著者は拉致問題に尽力しているが、本書を「なんとか横田めぐみさんたちを助けたい、そのためにできるだけ正確な半島情勢を知りたいと思って書き上げた」という。この思いが石破首相に届けばいいと切に願う。
《「自壊する北朝鮮 分裂する韓国」西岡力・著/2420円(草思社)》
江上剛(えがみ・ごう)54年、兵庫県生まれ。早稲田大学卒。旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)を経て02年に「非情銀行」でデビュー。10年、日本振興銀行の経営破綻に際して代表執行役社長として混乱の収拾にあたる。「翼、ふたたび」など著書多数。