2月12日、トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領が電話で会談した。
〈トランプ氏の2期目の就任後、プーチン氏との直接協議が公になるのは初めて。バイデン前米大統領は、ロシア側が一方的に始めた侵攻を止めない限り、ロシアとの協議には応じない姿勢を示していたため、米国の対応の大きな転換となる。トランプ氏は12日、プーチン氏との協議後、ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話で協議し、プーチン氏との協議内容を報告した。
(中略)トランプ氏はSNSへの投稿で、プーチン氏との協議は「長時間にわたり、非常に有意義だった」とし、両国への相互訪問を含め「非常に緊密に協力することで合意した」と述べた。「ロシアとウクライナとの戦争で、何百万人もの命が失われることを止めたいと(プーチン氏と)一致した」とも説明した。
ロシアのペスコフ大統領報道官も、プーチン氏とトランプ氏が約1時間半にわたり議論したと発言。ウクライナ和平について、プーチン氏は「紛争の根本原因を取り除く必要がある」と指摘。プーチン氏は、トランプ氏をモスクワに招待したほか、米政府高官らとロシアで協議する用意があると表明したという。〉(2月13日「朝日新聞デジタル」)
前回連載で紹介したが、筆者がクレムリン(ロシア大統領府)筋から得た秘密情報によると2月1日にも両首脳の電話会談が行われた。プーチン氏は、「停戦交渉に応じることはできる。ただし、ゼレンスキー『大統領』と交渉することはできない。なぜなら去年5月20日に大統領任期が切れているゼレンスキーには大統領としての正統性がないからだ。ステファンチューク・ウクライナ最高会議(国会)議長ならば、選挙によって国民に選ばれた代表なので交渉が可能だ」と述べたそうだ。これに対してトランプ氏は「今後もあなたと協議していきたい」と答えたということだ。
この秘密情報と併せて考えると2月12日のトランプ氏とプーチン氏の電話会談が行われた事実を両国政府が認め、トランプ氏がサウジアラビアで米ロ首脳会談が行われる可能性について述べたのは、停戦ゲームからゼレンスキー・ウクライナ大統領を外すことを目的としたものと解するのが妥当だ。
米ロ首脳電話会談の2日後、2月14日からドイツで「ミュンヘン安全保障会議」が始まり、ゼレンスキー氏はアメリカのバンス副大統領らと会談が予定されていた。そこでゼレンスキー氏が打ち出す立場が今後の交渉で無視できない影響を持つようになる可能性があった。この会談は予定通りに行われたが、マスメディアの関心を引かなかった。
事態はプーチン氏の思惑通りに進んでいる。ロシア・ウクライナの停戦の鍵を握るのは米ロ首脳であり、ゼレンスキー氏はプレイヤーでないという「ゲームのルール」を確定することにプーチン氏だけでなくトランプ氏も利益を見出している。アメリカはウクライナの梯子を外した。
佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。