「抗がん剤」は高価だが薬局の利益率は低かった/山中伊知郎「あなたの知らない“原価”の世界」

【今回のお値段「抗がん剤」:標準的な錠剤 1錠5000~3万円前後(新薬開発費 3000億円以上)】

 がんの治療法といっても、手術や放射線治療は、特定の部位に対するものだが、いわゆる抗がん剤治療は、より広範囲な効果を狙ったものだ。転移、また転移を予防する時、血液やリンパのがんのような時にも行われる。

 抗がん剤には錠剤やカプセル、点滴、注射などの摂取方法があるが、とりあえず錠剤に絞って、国が決めた価格を見ると、1日1回投与するタイプで、標準的なものはだいたい1錠5000~3万円くらい。ある薬局関係者によれば、

「よりどこの部位に効果があるかでも価格は違ってきます。肺がん向けが高く、胃がん向けは安い傾向がありますね。当然、保険適用なので、1錠1万円の薬を1カ月使っても3割負担なら患者が払うのは10万円以下。手術や放射線治療と組み合わせるケースもあり、その場合、治療費全体はもっと高くなります」

 さて、問題は開発費だ。新薬をゼロから開発するとなると、まず素材を見つけて、様々な組み合わせを試しつつ薬を作り出し、臨床試験を経て厚生労働省の承認を得る。その間、最低でも10年くらい、費用も3000億円以上は覚悟しなくてはならないという。さらに新薬の開発成功率は3万分の1前後といわれ、中でも抗がん剤は難易度が高いとも。それだけの開発コストを製薬会社が負担するのだから、まさにギャンブルだ。医薬品を扱うバイオベンチャー企業の中には、それに耐えられず、途中で開発を断念することも珍しくない。国の医療費削減の方針のために、薬の値段も下がり気味なのも逆風になっている。

 実は薬局側にとって、抗がん剤はあまり旨味のある商品ではない。仮に1回に100錠単位でメーカーから仕入れるとすると、1錠1万円なら100万円近いお金がかかる。そのくせ利益は5%前後を乗せる程度。前出・薬局関係者も、

「薬も使用期限があるため、廃棄処分のことも考えると抗がん剤は仕入れ値を割り込む危険もあるくらいです。その点、高血圧や糖尿病の薬などは利益率も30~40%と高いし、何より、患者さんは数十年単位の長い期間使っていただけたりするので、安定収入が見込めます。抗がん剤だと、せいぜい10年以内ですし、品ぞろえのよさをアピールするために入れているのは否定できません」

 世界有数の医薬品開発国とされてきた日本でも、近年は目新しい抗がん剤があまり出なくなっているらしい。ことに、発見から死に至るまでの期間が短いすい臓がんなどに効果のあるものは、なかなか薬品メーカーも手を出さない。開発費に見合うだけの収入が見込みづらいからだ。

「治らなくて長引く病気」の方が病院や薬局の大切な収入源なのだ。

山中伊知郎(やまなか・いちろう)どうも病気が発見されるのがイヤで、ここ10年くらい健康診断に行ってない。特にバリウム検査が大の苦手。下剤飲んでもなかなか出ない時の苦しさはまた格別だ。

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