妻から「役立たず野郎」と言われ…男性のDV被害相談が爆増する実態

 近年では怖い妻のことを「鬼嫁」と称するが、1970年代には夫を「バカ」「クズ」と罵り、殴る蹴るの暴行をはたらく「オニババ」こと妻・冬子の壮絶ないじめに耐え続けるサラリーマン、雨野ダメ助の日々をつづった漫画「ダメおやじ」(古谷三敏作)が人気を博したものだ。むろん70年代にはまだDVという言葉はなかったが、昨今では夫婦間だけでなく、恋人間での「デートDV」なども急増しており、警察庁によれば2023年に全国の都道府県警に寄せられたDV被害による相談件数は8万8619件と過去最多を記録したという。

 ところで、DVと聞くとふつうは男性が加害者、女性が被害者というイメージを持つが、近年は配偶者や恋人からのDVに苦しみ、警察に被害相談する男性が急増。先に触れた23年のデータによれば、男性からの相談は全体の27.9%にあたる2万4684件で、この数は5年前の約1.5倍、さらに約20年前の170倍にあたるというから驚くばかりだ。

 全国紙社会部記者が語る。

「DVが社会問題となる中、政府が相談体制の整備や被害者保護などを目的とした配偶者暴力防止法を施行したのが今から24年前の2001年。翌02年は男性からの相談は142件でした。それが年を追うごとに増加し、およそ20年で170倍超にまで膨らんだということになるわけですからね。被害男性の中には、妻から日常的に『男のくせに情けない』『お前はクズだ』『稼ぎがない役立たず野郎』などど暴言を浴びせられたり、毎晩のように性行為を強要され、うつ病を発症し退職を余儀なくされたケースも少なくないそうです。とはいえ、なかなか警察には相談できず、藁をもつかむ思いで支援団体に駆け込む被害男性も年々増えているそうです」

 たしかに、一昔前は「男は強く男らしく」といった言葉が飛び交う時代もあった。しかし、現代は言うまでもなく多様性の時代。ただ、専門家の中には、男女平等になったから女性によるDVが増えたということではなく、おそらくは、もともと夫婦間や恋人同士の間で行われていた隠れた被害が、社会風潮の変化により顕在化したのではないか、といった声が多い。

 都内でDV被害者の支援にあたる団体職員は、こう語る。

「10年ほど前は、女性の相談者がほぼ100%で、男性は月に数人あるかないかでした。ところが最近は、毎月の相談者のうち1割ないし、多い時には2割が男性の相談者で毎年増える傾向が顕著になっています。先月も1カ月に約30人が男性が相談にみえましたが、なかには顔や体に殴られた跡があるも数人おられましたね。聞けば、奥さんと殴り合いになり、最後は掃除機のホースで一方的に殴られたのだとか。ただ、『妻を売るわけにはいかない』と警察にも電話できず、うちへ相談に来たそうですが、身体的暴力だけではなく、言葉による精神的暴力もあるため、仕事が手につかず、離婚することばかり考えていると話していました」

 DV被害に遭った場合、女性であれば一時保護施設(シェルター)なども整備されているが、男性被害者の場合は、まだシェルターすら存在していないのが実態だ。ただ、右肩上がりで被害件数が増えている以上、今後は女性だけでなく男性向けシェルターの整備も急務といえるだろう。

 日本ではまだどうしてもDVは「身内の問題」と捉えがち。男性も、みっともないという思いが先に立ち被害を訴えにくい風潮もあり、まだまだ被害相談は氷山の一角ではないかとも思われる。被害男性たちが「鬼嫁」の恐怖から逃れられる日はくるのだろうか。

(灯倫太郎)

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