戒厳令宣布からわずか6時間で幕を閉じてしまった、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による「クーデター未遂」。1987年の民主化後、初めてとなる「戒厳令」の背景には、4月の総選挙での惨敗で圧倒的少数与党の状態を余儀なくされ、追い詰められた尹氏が暴走したのではないかとの見方が強い。
「4月の総選挙大敗で与党の獲得議席は108。一方、最大野党の『共に民主党』は過半数の170議席を獲得。金建希(キム・ゴンヒ)夫人のスキャンダルなどもあり、尹政権の11月の支持率は17%にまで低迷していた。尹氏としては、なんとしてもこの逆風を打破したいが、今、韓国の国会は予算編成が焦点。しかし、数の論理で政権の法案は何一つ通らない。そうなると、側近たちもどんどん離れていき、助言してくれる人がいなくなる。結果、無謀にもその打開策として同氏が考えたのが、戒厳令発令という判断だった可能性もあります」(韓国問題に詳しいジャーナリスト)
とはいえ、戒厳令を解除する決議には与党からも18人が加わっている。野党が国会に提出した尹氏に対する弾劾訴追案は、議員の3分の2(200人)以上が賛成すれば可決されるため、現在192議席を持つ野党としては残り8名を確保すればいい。また、尹氏に対し野党は、国家を混乱させた内乱罪、あるいは反逆罪で告発する可能性もあるため、仮に有罪になった場合は極刑も予想される。
間に立って誰か止めに入る人間はいなかったのかとも思える暴走劇だが、クーデター失敗により、2027年5月まであった尹氏の任期が2年前倒しされ、再び大統領選挙となることは間違いないだろう。
そんな中、次期大統領の最有力候補とされているのが、「共に民主党」李在明(イ・ジェミョン)代表。同氏は反日姿勢をむき出しにしてきた文在寅(ムン・ジェイン)元大統領の愛弟子だ。
「2022年5月に文氏から尹氏に大統領が代わり、岸田文雄首相との間で12回もの日韓首脳会談が行われるなど、日韓関係は『最良の時』を迎えていました。しかし、李氏が大統領に就任すれば、慰安婦や徴用工問題をはじめ、旭日旗掲揚、福島ALPS処理水などの『日韓8大懸案事項』が振出しに戻る可能性も否定できない。つまり、再び日韓関係が冬の時代に逆戻りすることが予想されます」(同)
そもそも、尹大統領が徹底的に排除したいと考えていたのが、北朝鮮に近い勢力。つまり北朝鮮寄りの立場をとる文在寅政権時代の残党だったのだが、今回のクーデター失敗で北朝鮮に近い勢力が息を吹き返すことは必至だろう。
「今回の尹氏による自滅を誰よりも喜んでいるのは、おそらく北朝鮮の金正恩総書記でしょう。正恩氏は現在、ロシアへの武器売却や兵士派遣で多額の外貨が入ってくる一方、トランプ米大統領の復活で当然、交渉を再開したいと目論んでいるはず。そうした中で、正恩氏が敵国であることを表明している韓国の、しかも『民族の逆賊』と名指しする尹大統領が失脚し、『同胞重視』の立場をとる李在明が大統領となれば言うことはない。誰よりもほくそ笑んでいることは間違いないでしょうね」(同)
むろん、韓国が再び反日という立場に戻れば、日米間の関係に溝が生まれることになり、結果、反米を掲げるロシアのプーチン大統領、中国の習近平主席にとっても朗報であることは言うまでもないだろう。
加えてトランプ氏は「在韓米軍はすべて撤退する!自分の国は自分で守れ!」といったディール発言を繰り返している。そんな中で、石破政権はどう渡り合っていくのだろうか。
来年1月の訪韓を予定していた石破首相だが、「日韓蜜月時代」の終焉が近づく中、そんな呑気なことも言っていられなくなった。世界は大きく動こうとしているようだ。
(灯倫太郎)