長い歴史を持つ中国には、高祖劉邦の妻・呂后のほか、清王朝末期に実権を握った西太后、さらに則天武后という「三大悪女」と称される女性が存在するが、今、中国で「則天武の再来だ!」と話題になっているのが、58人の部下と性的関係を持ち、10年以上にわたって様々な業者から多額なワイロを受け取っていたとして、懲役13年の実刑判決を受けた元女性官僚だ。
9月20日付の香港紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」によれば、判決を受けたのは鐘陽(ジョンヤン)被告・52歳。同被告は貴州省出身で、黔南県知事や党副書記などを歴任していたが、昨年4月、同被告についての不正な情報を入手した貴州省政府が調査に着手したところ、被告が2010年から2021年までの11年間、地元の業者から約5896万元(約12億円)のワイロを受け取っていたことが発覚。さらになんと部下58人との間で性的関係があり、一部は愛人としていたことが明らかになったのである。
「報道によれば、鐘被告は1972年1月、江西省の農村で生まれ、西南民族学院(大学)で歴史を学び卒業後、22歳の若さで中国共産党青年団に入党。貴州省貴陽市での公務員生活が始まったようですが、エリート官僚のキャリアウーマンとして実績を積み、貴州省内にある数か所の県では、副書記などを歴任。スタイル抜群で男好きする美貌も兼ね備えていたことから、知事在任中は『美しすぎる知事』としてメディアから持てはやされたこともあったようです」(中国事情に詳しいジャーナリスト)
そんな女性官僚がなぜ、犯罪に手を染めてしまったのか。裁判で同被告は、「私の腐敗は、政治的問題を処理する時に役立つ部下を養成しなければならないという誤った信念から始まった」と述べているようだが、権力を笠に男性部下らをホテルに連れ込み意のままにしたことと「養成」に、いったいどんな関係があるというのか。
「裁判では、同被告が出張や残業と称し、男性部下をホテルに呼び寄せては行為を繰り返し行っていたことが明らかになっています。部下の中には妻や恋人がいる者も多く、精神的苦痛に耐えかね、心身に支障をきたす者までいたとされます。一方、同被告はそんな事情など一切お構いなしで、常にバッグの中に避妊具を忍ばせており、どんな状況でも“行為におよべる”準備を整えていたというんですから、空いた口が塞がりません。12億円の賄賂といい部下58人へ性暴力といい、権力の元、やりたい限りを尽くしたわけですからね、『現代版則天武』と言われても致し方ないでしょう」(同)
同被告に懲役13年の実刑判決が下ったことを受け、今月1日、中国共産党は同被告の党籍を剥奪。中国での共産党党籍剥奪は官僚にとって最も大きな処罰で、ズバリ政治的死刑宣告を意味する。
「実は中国では、2019年7月にも肉体を武器に異例の出世を果たした美貌の女性官僚の収賄と公金横領および、職権濫用の容疑に関する裁判が行われ、被告が1300万元(約2億800万円)の収賄を認める大スキャンダルがあった。この時も、金額もさることながら姜保紅という被告が身体を武器に権力中枢に上り詰めていくさまが、裁判で次々に明らかになり、中国メディアが一斉に「『権色交易』(権力と色欲の取引)で、大学のミスキャンパスから『淫官』(淫らな官僚)へ」と大々的に報じたものです(同)
今回の鐘被告のケースとは異なるものの、専門家の中には、中国にはいまだ肉体を武器にした出世していくという概念が抜けきれず、結果、権力構造の中ではその”忌まわしき伝統”が継承されている、という声もある。
それにしても美人女性エリート官僚に、毎日避妊具を持ち歩き部下を次々とホテルに連れ込んでいた、という裏の顔があったとは…。中国では当分このスキャンダルが報じられることになりそうだ。
(灯倫太郎)