嫌よ嫌よも好きのうち、という例えがあるが、どうやら北朝鮮には全く当てはまらないようだ。4月18日に朝鮮中央テレビで再放送された首都・平壌でのニュータウン完工式典(16日)映像。前日の17日には「愛国歌」と表記されていた字幕が、翌日には「朝鮮民主主義人民共和国国歌」と変更されていたとして波紋が広がった。
北朝鮮ウォッチャーの話。
「北朝鮮では今年1月に、金正恩総書記が最高人民会議で、『大韓民国とは統一の道を共に歩むことはできない』として、憲法から『自主、平和統一、民族大団結』などの表現を削除するよう指示。これまで南北の交渉を担ってきた党統一戦線部や下部の特殊機関を改変し、南北統一の象徴だった『祖国統一3大憲章記念塔』まで破壊しました。2月には、北朝鮮外務省のHPに掲載される『国歌』(愛国歌)にある『三千里 美しい 我が祖国』という歌詞から朝鮮半島の一体化を象徴する用語でもある『三千里』が削除され、代りに『この世』として、『この世 美しい 我が祖国』と変更される、ということもあった。これは正恩氏の声明通り、北朝鮮が民族統一の道を閉ざしたことを意味するもの。今回の『愛国歌』の名称変更もその一環とみられますが、ここ最近、北朝鮮の露骨な“嫌韓”ぶりは留まることを知らないようです」
1月以降、北朝鮮当局は南北軍事境界線を「国境」に言い換えたり、半島地図の表示を変更するなど様々な措置を取ってきたが、韓国国歌の題名も同様に「愛国歌」であるため、おそらくそれが気に入らなかったのだろう。しかし、北朝鮮では憲法で「国歌は愛国歌」と明記しているため、本来であれば最高人民会議を開き憲法改正を行わなければならない。
「とはいえ、正恩氏の鶴の一声でどうにでもなる国ですからね。今後も『南北統一』を象徴する組織や構造物は破壊していくでしょうし、韓国を同じ民族とみなすような単語もどんどん排除されていくことが予想されます」(同)
振り返れば、朝鮮半島が分断され韓国と北朝鮮という二つの国が誕生したのが1948年。以来75年以上、両国はお互いを「統一を目指す潜在的なパートナー」と位置づけてきた。
「これまでにも、幾度となく関係がこじれたこともありましたが、それでも、この基本原則だけは維持されてきました。しかし、今年4月15日の金日成主席の誕生日の『太陽節』をめぐり、官製メディアが名称使用を控えたことでもわかるように、正恩氏が金日成氏や金正日氏らとある種の差別化を図って自身の神格化を目指していることは間違いない。その証拠に毎年、この日は日成氏の遺体が安置される錦繍山の太陽宮殿に幹部らと参拝し、それが報道されていましたが、今年はその映像すらなかったですからね。ただ、祖国統一は祖父と父の悲願。それを正恩氏がスパっと斬り捨てたことで、当然は分断された家族を持つ国民の動揺もあるはず。いずれにせよ今後、南北関係がより難しい局面に入っていくことは間違いない」(同)
祖母と父の思いを捨て、嫌韓に突っ走る正恩氏。その行きつくところとは…。
(灯倫太郎)