「もしトラ」とは、「もしトランプ前大統領が再び大統領になったら」という意味だが、この「もしも」が、1月24日に行われた共和党の大統領候補を選ぶニューハンプシャー州の予備選挙で、現実味を増したようだ。
トランプ氏の対抗馬となっているのは、元国連大使で女性候補者のニッキー・ヘイリー氏で、彼女は一連の予備選の中でニューハンプシャー州にはかなり力を入れていたとされる。だが、フタを開けてみればトランプ54%、ヘイリー43%で、トランプ氏が圧勝という結果だった。
「次は、3月5日のスーパーチューズデーということになりますが、多くの専門家が、共和党候補者はトランプ氏でほぼ決まりとの見解を示しており、このままの勢いを維持していけば、11月の大統領選挙本選でもトランプ氏が民主党現職のバイデン大統領を破り、大統領に返り咲くとの見方も出始めています」(全国紙国際部記者)
とはいえ、「もしトラ」が現実になった場合、世界の情勢が根底から大きく揺れ動くとされている。前出の国際部記者が続ける。
「まず、第一がウクライナ問題。ウクライナはこの2年間、欧米からの支援で戦闘を継続してきましたが、ビジネスマンのトランプ氏が大統領になれば、経済的な負担となるウクライナへの支援を大幅に縮小し、『見殺し』にする可能性があります。そうなった場合、ロシアの思い描く形で戦争が終結することになるでしょう。つまり、クリミア紛争のときと同様、ロシアに領土の一部を奪われた形での紛争終結となり、負の遺産と大きな遺恨だけが残ることになるのです」
さらに、台湾との関係にも大きな亀裂が入るという見方もある。1月13日に行われた台湾の総統選挙では、中国と距離を置く民進党の頼清徳副総統が当選したが、トランプ氏は大統領時代、「台湾に思い入れはない」と明言している。仮に中国が台湾に武力行使を進め、「台湾有事」が起きても、アメリカは直接参戦しないとも取れる発言をしてきた。
「トランプ氏はその見返りとして、中国に米製品を大量購入させるなど、アメリカの対中貿易赤字の大幅軽減を習近平主席との間で『密約』するだろう、という報道もありました。ただ、アメリカの『台湾放棄』は台湾が米国による核の傘から外されることを意味し、そうなれば、自国防衛のために同国が核開発に走る可能性が高まります。すると、台湾の核武装を引き金に、韓国、日本といった周辺国に『核のドミノ倒し』のような連鎖反応が起こり、核保有という選択肢が浮上するという事態も考えられるのです」(前出・記者)
さらに、「もしトラ」で大打撃を受けるとされるのが、パレスチナだ。トランプ氏は、在職中に在イスラエル米大使館をエルサレムに移したこともある親イスラエル派。ガザでの戦闘がさらに泥沼化することは避けられないとも言われる。
実は、直近の中間選挙の情勢を見て、「もしトラ」ではなく、「まずトラ」(まず間違いなくトランプが大統領に返り咲く)と言う専門家もいる。「トランプ新大統領」で世界がどう変わるのか。片時も目が離せないのである。
(灯倫太郎)