負けたら労働鍛錬隊送り? 北朝鮮選手を「暴力サッカー」に駆り立てる恐るべき事情

「今日の試合で2〜3人の選手が少し興奮し、誤った(審判の)判定に興奮してそのような場面があった。主審が公正でなければ、それはサッカーへの侮辱だと考える」

 杭州アジア競技大会の男子サッカー準々決勝で日本に1-2で敗れた試合後、北朝鮮代表シン・ヨンナム監督は憮然とした表情でこう言い放った。
 
 この試合では、北朝鮮のあまりにも度を超えた威嚇プレーに批判が集中。アジアメディアも、「3年8カ月ぶりに現れたやくざサッカー、国際舞台で懲戒の可能性」(韓国紙・イルガンスポーツ)、「とんでもないことが起こった! 北朝鮮男子サッカー代表が日本のチームスタッフに水を要求し、受け取った後には殴ろうとした」(中国・捜狐体育電子版)、「日本に敗れた北朝鮮が審判を押し倒しそうなほどの激烈抗議。世界中から批判の声」(韓国・中央日報電子版)とこぞって報道。英デイリーメール紙は「日本に敗れた北朝鮮の選手たちが主審を“総攻撃”」として、北朝鮮監督の「これがサッカーだ。私たちの振る舞いは許容範囲だと思う」との談話を引用し、「反省の様子もない、南米でも見たことがない恐ろしい国だ」と世界が驚愕したと報じている。

 この試合、開始時早々から北朝鮮イレブンのプレーには、鬼気迫るものがあった。

「試合中は、通常のサッカーではあり得ない危険タックルが連発。さらに後半27分にはピッチサイドで日本スタッフのバッグから水を奪い取ると、拳を振り上げ“殴るぞ!”と言わんばかりに拳を上げて威嚇。この行為には主審からイエローカードが出されましたが、終始スポーツマンらしからぬ行為だけが目立つ試合になりました」(スポーツライター)

 とはいえ、なぜ北朝鮮イレブンは日本に対し、ここまで敵意をむき出しにするのか。北朝鮮のスポーツに詳しい専門家は、こう分析する。

「北朝鮮内でサッカーは最も人気のあるスポーツ種目の一つで、金正恩総書記も特に注目している競技だとされます。なので、国旗を掲げて国際大会で戦うとなれば、言い方は悪いが、どんな手を使っても必ず勝たなければならない。監督はじめ選手には、そんな重圧がある。しかも、相手が韓国と同じく米国と同盟を組む日本となれば、国民感情もあり、負けることなどあってはならぬこと。それがこの試合に如実に現れていましたね」

 一部報道によれば、サッカーで優秀な成績が残せなかった場合、選手らは労働鍛錬隊(軽犯罪者の強制労働施設)送りにされるといった情報もあるが、前出の専門家によれば、

「さすがにそれはないでしょうが、国際舞台で活躍すれば徴兵を免除される場合があるため、そうなれば海外で活躍できるチャンスが生まれるかもしれません。さらに、活躍により報奨金が出たり、就職先が優遇されますが、負ければ当然それも叶わなくなる。つまり、彼らは自分の将来と家族を背負って大会に出てきているのです」

 ただ、だからと言って危険行為が許されるはずもない。日本サッカー協会は3日、AFCとFIFAに対し意見書を提出したが、北朝鮮がその警告をどのように受け取るかは未知数である。

(灯倫太郎)

*写真は02年釜山アジア大会での北朝鮮イレブン

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