年商60億円「介護の虎」社長インタビュー(1)SNSが人材不足解消の切り札に

 大阪が元気だ。18年ぶりの阪神のリーグ優勝に始まり、25年には大阪万博を控えインバウンド需要も回復基調だ。そうした中、儲けることが難しいとされる介護ビジネスで、大阪を拠点に本格的な参入からわずか7年余りで年商60億円を誇る「介護の虎」と呼ばれる実業家がいる。果たして、3Kと呼ばれ、人材確保が厳しい介護業界で独り勝ちを続ける秘訣とは。インフレが迫る日本社会で生き残る処方箋に迫る。

「大阪の街は、コロナ明けで活況を呈していますよね。僕は野球については詳しくはありませんが、阪神の優勝は今の関西の勢いを象徴しています。25年には大阪万博もありますけど、万博の直接的な経済効果はそれほどではないかもしれない。むしろ賛否両論あるけど、IR(統合型リゾート)の誘致によるポテンシャルは計り知れません。大阪の吉村(洋文)知事の肝入りですから、IRを起爆剤に、ここ10年の大阪経済の成長力は東京にもひけをとらないと確信しています」

 そう断言するのは、大阪府市内を中心に複数の介護施設を展開する株式会社エースタイルの谷本吉紹代表。弱冠44歳にして年商60億円を誇り「介護の虎」を自認する若きリーダーだ。高校卒業後に、イベントオーガナイズを皮切りに人材派遣業などを経て、16年に本格的に介護事業へ参入。わずか7年余りで、関西圏内屈指の介護事業者へと成長。地域密着をモットーに、本社のある大阪市城東区を中心に複数の事業所を展開。8月には初の著書「介護で儲けて何が悪い」(徳間書店)を上梓したばかり。その波瀾万丈の半生は、父親の蒸発から始まり様々な起業経験もトラブルの連続で、ジェットコースターのような山あり谷ありのエピソードの数々は一読の価値ありだ。谷本氏が続ける。

「介護事業の参入については僕なりの勝算があった。元々、エースタイルはウォーターサーバーや太陽光発電のセールスでは関西でもナンバーワンの会社でした。ただ、どこか流行り廃りとは無縁な社会的意義のある事業に参入したかった。その点、介護事業は直接お客様とそのご家族ともコミュニケーションを取り合いながら携わることのできるビジネスです。それまで直接的に感謝の言葉をいただく機会は、それほど多くなかったですが、介護業界は日常的に感謝の気持ちや言葉があふれている。僕にとってはまさに一生を賭けるに値する仕事といっていいと思います」

 だが現在、介護業界の置かれている環境は非常に厳しいものがある。「3K職場」と呼ばれるイメージに加え、慢性的な人材不足も深刻だ。特に若年層の人手不足と短期での離職は、介護業界のみならず、世の中小企業にとっては悩ましい問題である。

「確かに人材確保の問題は、僕のいる介護業界では深刻です。その中で、エースタイルは人集めについては一日の長があります。僕は長年、人材派遣のビジネスをしていた関係で、人を集めるための広告費には莫大な金額を支払ってきました。時には資金繰りにも影響するほどで、究極的には『求人広告をゼロに』を目標に、社内の仕組み作りを進めたほどです。そこでたどり着いたのがSNS運用です。いわゆるネットの活用です。僕自身、44歳だからアナログとデジタルの中間の世代ですけど、特に若手の人材確保においてはツイッターでつぶやけばDMで応募が来るほど。その効果は絶大です。逆にシニアの求人はいまだに紙ベースの効果が圧倒的です。アナログとデジタルの使い分けができるハイブリッドな経営者が今の時代には求められているんです」

谷本吉紹(たにもと・よしつぐ)株式会社エースタイルホールディングス代表取締役。人材派遣、管財不動産専門会社を経て、2001年(平成13年)から介護ビジネスに進出。07年に株式会社エースタイルを法人化。現在は従業員350名(2021年4月度実績)、運営施設数は30カ所以上を誇る。22年からはユーチューブにも進出し「令和の虎」の虎役で出演するほか、自身のチャンネル「谷本家」を運営するなど実業家だけにとどまらないマルチな才能を発揮している。

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