ここにきて、谷本氏が次なるチャレンジの場として選んだのが飲食ビジネスだ。今年末には、大阪の一等地「心斎橋筋商店街」で、ラーメン屋を開店すべく準備に追われている。
「ラーメンと介護。一見、何の関係もないように思えますが長年、経営者としてナンバーワンを自負してきた僕にとっては、同じ土俵にあるもの。以前から飲食に対するあこがれもあったんですが、経営者の視点からすれば、きちんとマーケットリサーチができてお客様に対して的確なアプローチができれば繁盛店として成功することができる。どうせやるなら大阪で一番人が集まっている心斎橋筋商店街だと思いましたので、そこに物件が出たので、1棟改装してちょうど内装工事をしているところです」
年商60億円規模のビジネスを率いる経営者に対するラブコールは数知れず。全国の介護業者からコンサルタントを打診されることもあれば、そのリーダー力を買われ、政治家への転身を進められることも少なくないというが‥‥。
「正直言って、僕は政治家に向いてないんですよ。色々お声はかけてもらえるんですけど、僕は100%政治の世界に行くことはありません。唯一、できる社会貢献といえば、大阪ひいては日本全体を元気にするような経営者を育成すること。介護ビジネスはヒューマンエラーがあるので、広域や全国展開は考えられない。その点、ラーメン店であれば、中核となる店舗をベースにすればフランチャイズも可能です。アサヒ芸能の読者は若手の従業員と仕事をされている方も多いと思うんですけど、僕から言わせれば若い子の気持ちを100%理解するのは不可能。ならば、若いリーダーを育成して、彼らを通じて会社を回した方が効率的です。特に年代が上がると自分一人で背負っちゃう管理職の人も多いと思うんですけど、自分の仕事はどんどん手離れして若手にゆだねるぐらいの方が組織はうまく回るんじゃないでしょうか。今一度、自分の原点に立ち返って、自分の経営のエッセンスを次世代に伝えられたらというのが今の自分の夢ですね」
介護ビジネスのみならず新規事業にも意欲旺盛な谷本氏。その背景には、40代を迎えて心境の変化があったという。
「僕は20代の時に知人の勧めで2年ほど管財物件の営業マンをしていたことがありました。その現場は修羅場の連続で、300人以上もの破産した経営者を見届けました。その時代に学んだことは、今の経営にも生かされています。中でも、破産した経営者は例外なく会社に居場所がないことです。ひいては、家庭にも居場所がなかったのは象徴的でした。居場所のない社長は、夜の街に居場所を求めて、水商売の女性に入れ込む。そして高額な領収書を経理に挙げると、『社長は従業員そっちのけで飲み歩いている』と社員の士気も下がり、最終的には売り上げも落ち込む悪循環です。かつては僕もバリバリのワンマン社長で部下を引き連れては連夜飲み歩いていました。そういう現場は社員の士気は上がりますが、ちょっとでも飲みにつれていかないとすぐに従業員から不満が噴出するし、肝臓にも悪い(笑)。今や若手の社員を飲みに誘うだけでパワハラと言われかねないから、家族最優先で飲み会も年に数日です。すると、体調はいいし、家族との時間も増えていいこと尽くしです。
社長でも管理職でもいちばん心がけるべきことは、上機嫌でいること。時代の変化が速いからこそ、気分に左右されずに経営することが大事な時代です。お互いに頑張りましょう」
谷本吉紹(たにもと・よしつぐ)株式会社エースタイルホールディングス代表取締役。人材派遣、管財不動産専門会社を経て、2001年(平成13年)から介護ビジネスに進出。07年に株式会社エースタイルを法人化。現在は従業員350名(2021年4月度実績)、運営施設数は30カ所以上を誇る。22年からはユーチューブにも進出し「令和の虎」の虎役で出演するほか、自身のチャンネル「谷本家」を運営するなど実業家だけにとどまらないマルチな才能を発揮している。