決勝では、7人のピッチャーを継投させ、まさに「全員野球」でアメリカから勝利をもぎ取った。
「今回の侍ジャパンにはキャプテンは不在です。実際には、昨年の秋の強化試合の際に、栗山監督が選手ひとりひとりに『チームリーダーは誰がいいと思う?』と聞き取りを行っている。ところが、選手たちの反応は『誰か選ぶんですか?』と、感触のいい回答がなかった。そこで苦肉の策として、宮崎合宿初日に『キャプテンは決めない』と発表したのです」(WBC担当記者)
ところが、初日から合宿に参加したダルビッシュ有(36)が若手投手を相手に連日ピッチング講座を開設。今永昇太(29)、山本由伸(24)、大勢(23)などに3種のスライダーを伝授する大盤振る舞い。ダルがチームの精神的支柱となったことで侍ジャパンは結束を強めていった。これこそ「全員キャプテン」システムの恩恵と言えるだろう。
野球評論家の江本孟紀氏が栗山監督の特性を看破する。
「トップ選手が集まる代表チームは一丸になるのが難しい。過去の代表チームを見ていると、監督・コーチは上から目線になっていた。ところが栗山監督の場合は、選手と同じ目線でフラット。最大の特徴は『ショーヘイ』『ロウキ』など選手を下の名前で呼んでいることです。今の選手たちをまとめて、その力を最大限に引っ張り出すことにつながっている。これは、野村克也監督だったら絶対やらないことでしょう」
「3冠王、本日も3三振なり」などノムさん節でボヤかれたら、今の選手はますます萎縮してしまうのがオチだという。
「栗山監督が最後まで村上を信じたというのが本当かどうかはともかく、常にポジティブに考える。それが栗山采配の最大のプラス面でしょう。ベテラン監督ほど目先の勝利のため、ついつい駒を動かしたくなる。ペナントレースなら、あの場面で、代打かバントの可能性もあるでしょう。上から目線で代打を送ることなく、目線を下げ選手の力を引き出した。代打、選手交代だけが采配ではない。いちばん難しいのはチーム内をまとめ上げることなんです」(江本氏)
かくして、村上は決勝戦でも特大132メートルアーチを放ち、村神様の復活を印象づけたのだ。
角氏が決勝戦を振り返る。
「大谷選手はもはや野球界の〝神〟でしょう。9回2アウト、大谷がマイク・トラウト(31)に投げたスライダーは完璧だった。たとえ打者大谷でも打てなかったと思います。試合前に大谷選手が『今日は憧れるのはやめましょう』と声出しで、アメリカのスター選手を意識するなと促しましたが、日本選手が憧れているのはオマエさんだよと突っ込みたかった」
となれば、この二刀流を育て上げ、グラウンドでの大暴れを演出した栗山監督こそ、令和の名将なのかもしれない。
*週刊アサヒ芸能4月6日号掲載