ゲレンデでスノーボードを楽しむ男性の背後に、急接近してきたのは1頭のイノシシだった。「やばい、やばい!」と周囲が注意を促すも、イノシシは猪突猛進で体当たり。その後も男性の足に何度も鼻先を突き立てていく─。
これは2月7日、新潟県妙高市のスキー場で撮影された動画だが、地震前兆研究家の百瀬直也氏はその凶暴性に着目する。
「本来は臆病でおとなしいイノシシが、人間を襲うことはめったにありません。思い起こされるのは21年11月17日の地震で、震源地は神奈川県西部。最大震度3で目立った被害はなかったものの、遡ること10月30日には、約17㌔離れた小田原市の住宅街で、女性がイノシシに足を噛まれる被害に遭っています」
生物だけでなく、植物が天変地異を知らせるケースも報告されている。95年1月の阪神・淡路大震災の前兆にまつわる証言を集めた「前兆証言1519!」(東京出版)には、
〈アサガオが半年近く咲き続けた〉
〈椿の花が200も狂い咲きした〉
といったエピソードが紹介されている。百瀬氏が現在、研究のために育てているのがキンセンカだ。
「キンセンカは非常にデリケートな花で、地震の前には一斉開花する可能性があるかもしれず、地震との関連性を調べているところです」
動植物の異変はどうやって引き起こされるのか。大阪大学で名誉教授を務め、「地震の前、なぜ動物は騒ぐのか」(NHKブックス)などの著書がある池谷元伺工学博士(故人)は、地中および海中の「岩石破壊」に伴って発生する地震電磁波にその原因を求めた。百瀬氏もこの電磁波を〝体感〟でキャッチする一人だ。
「電磁波の影響を受けるのは人間も同じ。電磁波過敏症の人は、地震を前に頭痛や目眩、耳鳴りなどの症状に見舞われます。かくいう私も11年3月の東日本大震災の際には、かなり前の段階から頭痛に悩まされ、仕事がまったく手につかなかったのを覚えています。たとえ自身が体感できなくても、ヤフーの『リアルタイム検索』で『頭痛』のツイート数を調べて、過去30日間にどれだけつぶやかれたのかを見るのも、ひとつの目安になるでしょう」
気象庁の公式サイト上で日々更新されている「地震情報」も重要な情報源だ。
「M3クラスの小さな地震でも『これは前震ではないか』と常に疑いの目を向けることが大切です。今、懸念しているのは福島県沖。21年2月と22年3月にM7クラスの地震(震度6強)が発生し、いずれも過去3週間以内にM4級の前震が確認されていることです。今年に入っても1月25日にM4.9、2月13日にM4.9の地震が観測されているので注視していきたい」
かねてから首都直下地震と並んで警戒されているのが、南海トラフ巨大地震だ。今後30年以内の発生確率が70〜80%とされ、いつ起きてもおかしくない状況だが、
「私が着目するのは黒潮の動き。海洋研究開発機構(JAMSTEC)のサイト内の『黒潮親潮ウォッチ』というページで日本沿海の潮流が確認できるのですが、最新のデータを見ると、ウネウネと蛇行しているのがわかります。かなり異端とされる説ですが、南海トラフを含めた大蛇行の渦の内側では、大きな地震は起きないと考えていいかもしれません」
動植物から体感、そして潮の動きまで‥‥、あらゆる前兆をマークして、来たるべき日に備えたい。