コロナ禍で仕事激減となり、身につまされている読者諸兄も多いことだろう。プロ野球ジャーナリストの寺崎江月氏(56)は、そのマイナス分を取り戻すべく求人情報誌を手に取った。それから2年8カ月、弁当配送員として奮闘し続けている。
徐々に緩和されてきたとはいえ、20年以来、プロ野球の取材も厳しくなった。選手や首脳陣への接触に規制がかかるようになったのだ。まさにフリーの野球ジャーナリストの身には大打撃である。
「他の仕事で収入を確保する必要に迫られました。それでも、取材のアポが取れれば本業の仕事は入れたい。だから、比較的に指定されることが少ない、午前中だけをバイトの時間に充てようと職を探しました。結果、見つけたのが弁当配送でした」(江月氏、以下同)
仕事内容はまず、多種多様な弁当を製造する東京・新宿区内のビルに出社し、指定分の弁当を積み込んだら、新宿のデパートと東京駅構内に構える販売店舗に軽トラックで運搬という流れだ。
「朝の4時半には自家用車で家を出ます。電車通勤は無理です。まずは8時に店舗がオープンする東京駅分の第1便を6時半には届けなければならないので、軽トラをキッチンに横付けして5時半までに弁当を積み込みます。『うな重20箱』『すき焼き重40箱』といった感じで40箱ぐらい入るボックスにひとまとめにして、500箱分ぐらいを詰めたら6時半には東京駅着。ただし、店舗は丸の内なのに搬入口は八重洲にしかない。おそらく、皇居に背を向けるなということだと思うのですが、人の流れを避けながら、たまにクランクもある500〜600メートルを台車で2往復するんです」
7時半には新宿に戻り、先と同様の荷詰め作業を行って8時には再出発。8時半に新宿のデパート、9時半には東京駅の第2便を届ける。ここで第1便のボックス回収をし、帰りがけに新宿にも立ち寄ってボックスを回収。帰社して午前11時頃には終了だという。
単純作業とはいえ、早朝から慌ただしく動き回るのだが、なんと江月氏には交代要員がいないという。
「バイトを始めた20年5月6日当初は火曜日が定休日で、こちらの都合によっては別の曜日でも代わってもらえる人が2人いました。ところが3カ月もした頃、その2人が辞めてしまって‥‥。以降、無遅刻無欠勤を続けております。その間、時給1100円は変わっていませんが、1年が経過した時に1万円の〝ボーナス〟が出た。2年続けた際には、こちらから『2万円頂戴できますか?』とねだってしまいましたよ(笑)。気持ちよく出していただけましたね」
現在は、8対2で本業よりも弁当配送の比重が大きくなった。盆暮れ正月を問わず毎日の仕事なのだから当然だが、結果的に生活時間帯もそれに合わせたものになっている。
「仕事を終えて帰宅した午後帯が、私にとって夕食の時間なんです。13時ぐらいから、つまみを作って飲み始めます。並行して、例えばカレーなどを煮込みながら飲み続け、16時ぐらいに夕食として〆で食べるんです。寝るのは18時、遅くとも19時には寝ますね」
早朝からの労働でその頃には眠気が襲ってくるのも想像できるが、出勤時間を考えると寝床に入る時間が少々早いようにも思える。
「いや〜、安全運転のため8時間睡眠を心がけているのですが、深夜1時半〜2時には起きたい理由があるんです。野球のシーズン中は情報を得るため、23時から放送された『プロ野球ニュース』(CSフジテレビONE)の録画を見ます。リアルタイムでは17時半のスタメン発表を確認して1試合だけ寝床でテレビ観戦するのですが、初回の表裏までで寝込んでしまいます(苦笑)」
まるで弁当配送に身も心も捧げているように見え、「社員になってくれなんて言われないですか?」と尋ねたが、江月氏は笑いながら否定してこう続けた。
「『配送部長』なんて呼ばれていますが、あくまで本業がありますからね。ただ、お金もあまり使わない規則正しい生活が新鮮で(笑)。合っちゃったのかもしれませんね」
良くも悪くも、コロナがもたらしたイレギュラーであろう。
*週刊アサヒ芸能2月16日号掲載