アメリカ野球のメジャーリーグのニュース映像などで、ホームランボールが飛んでくるのを熱心なファンが場外のボートで待っているところを見たことがある人は多いのではないか。
それはサンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地の「オラクル・パーク」(旧AT&Tパーク)で、スタジアムのライト裏は海だ。この海に場外ホームランが落ちる「海ポチャ」は「スプラッシュヒット」と言い、スプラッシュヒットが生まれると、噴水が上がる。いかにもエンタメの国アメリカの野球観戦を象徴するような光景で、だからアメリカでは野球場を「スタジアム」とは呼ばず、様々な楽しさを得られる「ボールパーク」と呼ぶ。
日本では今年3月に北海道北広島市で日本ハムの本拠地スタジアムを含むボールパークの「北海道ボールパークFビレッジ」が開業するが、これに負けてはいられないと、読売巨人軍が東京稲城市で進めているボールパーク構想の全貌が1月25日に明らかになった。名称は「TOKYO GIANTS TOWN(東京ジャイアンツタウン)」だ。
「中心となるのはもちろん野球場(人工芝)の新GIANTS球場で、イースタン・リーグの公式戦や巨人の練習場のほかに、大学・社会人野球や高校野球の予選の貸し球場にもなります。それだけでは新しい野球場に過ぎませんが、ボールパークとしての売りは、外野席からコンコースを通じて直接入ることが出来る、水中回廊がある本格的な水族館を併設していること。ロケーションはよみうりランドの隣なので、既にある遊園地や温泉、ゴルフ場と一体となって楽しめるというわけです」(経済ジャーナリスト)
コンセプトとしては、巨人の「心のふるさと」の再現なのだという。かつて巨人は田園調布に近い河川敷に多摩川グラウンドがあって、若かりし頃の長嶋・王などもここで練習し、彼ら見たさに「多摩川ギャル」と呼ばれる若い女性が集まったりしていた。ところが85年にはよみうりランド横に2軍・3軍グラウンドができ、熱心なファンならずとも近隣の住民が若い選手を見守るといった光景が見られた多摩川グラウンドは98年には消滅した。
そんな懐かしい過去を現代風に再現すべくジャイアンツタウンは構想され、25年3月に球場をオープンさせると、26年中に水族館もオープン。さらにはスポーツ関連施設や飲食施設を誘致して、一大レジャータウンを作ろうというものだ。総事業費は250億円以上。
事業主体は読売新聞東京本社と読売巨人軍、そしてよみうりランドの3社だ。
「読売グループ本社ではこれに先立つ20年に、別会社で東証1部上場企業でもあったよみうりランドにTOB(株式公開買付)を実施、完全子会社化して21年にはランドの上場を廃止しています。それまで会社としてのよみうりランドは、遊園地のよみうりランドと敷地内併設している温泉やゴルフ場の『遊園地・健康関連事業』と『ゴルフ場事業』、そして川崎競馬場と船橋競馬場の『公営競技事業』を3本柱としていましたが、TOB以後に『ボールパーク事業』を4本目の柱として新設していました」(同)
一方、新聞社としての読売グループを見た場合、日本新聞協会が昨年末に公表した数字によると、スポーツ紙を除いた一般紙全体ではあるが、この1年で200万部も減少しており、このままの勢いでは新聞は15年後には消滅することになる。
だから今回の構想も、前向きに受け止めればグループ内の3社が一体となった新たな事業で経営資源のシナジー効果を…ということになるが、後ろ向きに見ればまだ新聞が辛うじて元気なうちに新たな収益源確保と、新聞の急速な斜陽化の危機感の表れとも受け止められる。
遠からず〝紙〟としての「読売」に代わり、レジャーランドとしての「よみうり」が当たり前といった時代になるのかもしれない。
(猫間滋)