岸田×菅×麻生「安倍レガシー」争奪戦(1)国民のマインドとズレまくる

 通常国会が始まった。旧統一教会問題、物価上昇で冷え込む景気‥‥解決しなければならない政治課題は山積みだ。なのに、我が国のリーダーたちは課題解決よりも先に、誰が志半ばで凶弾にたおれた元総理の遺志を継ぐのかで火花を散らしている。国民そっちのけの呆れた「バトル」の様子を実況中継する。

 対GDP比2%の「7兆円防衛予算」を実現する─。それが憲法改正と並ぶ安倍晋三元総理が掲げた「戦後レジーム」からの脱却であり、いわば悲願だった。昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻後は、防衛費増額の主張を強め、「日銀は政府の子会社。(国債の発行を)心配する必要はない」として、財源確保のために「防衛国債」を発行するとまで言っていた。

 昨年7月、参院選の応援演説中に安倍元総理は、山上徹也被告が放った凶弾によってたおれた。声高に唱えた悲願は達成されずに泡と消えたと見られていた。

 ところが、こともなげに岸田文雄総理(65)が成し遂げてしまった。「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」のいわゆる「安保3文書」の改定に合わせて、新たに「敵基地攻撃能力」を明記。「防衛国債」どころか増税を断行してまで、23〜27年度防衛費で総額43兆円の増額に踏み切ったのだ。

 安倍政権で約5年にわたって外相を務めた岸田総理。「下命があれば、時間がかかっても必ずやり遂げた」と、安倍元総理からの評価も高かったという。まさに、我こそが遺志を継ぐ者だと言わんばかりの決断であった。現に、指導力と求心力を見せるために岸田総理が勝負に出たことは間違いない。この間の事情を政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏はこう指摘する。

「昨年、複数の岸田派議員から『内閣支持率について、年末から年明けにかけて巻き返しを図る』という声が聞かれました。それが『防衛費増額』と、1月4日に年頭の記者会見で語った『異次元の少子化対策』だったのですが、いずれも増税含みの話で、国民の支持を得られたかといえば、完全に裏目に出ました。得意の外交でも、9日から15日にかけて行った欧州3カ国とカナダ、アメリカの歴訪で、話したのは国家安全保障のことばかり。国民のマインドとはズレていることが明白となりました」

 現に、1月10日公表のNHK内閣支持率では、支持が33%に対して不支持45%で、前回調査から3ポイント下げ、昨年11月と同様の最低支持率を記録した。むしろ、下げ止まらない支持率に、破れかぶれになって防衛費増額を持ち出したのではないかと思えるほどだ。幕を開けた通常国会では、野党が旧統一教会問題などで手ぐすね引いて待っていた。そんな中で、増税路線をあらわにしたことで、しばらく論戦は荒れるだろう。今年4月には日銀総裁人事と統一地方選挙、さらに5月には岸田総理の地元・広島でのサミットが開催される。重大な政治スケジュールが目白押しの中、岸田総理は春まで持ちこたえられるのか。

 しかも、岸田総理は与党の動きも警戒する必要がある。菅政権の退任直前が30%、第4次安倍政権が34%と、支持率だけ見れば、いつ倒閣運動が起きてもおかしくないのだ。

ライフ