台湾は一歩も引かず…「半導体」に追い詰められる習近平中国

 習近平政権は天安門事件以来の政府批判の高まりをかわすために、台湾有事の構えを一段と強めている。
 
 ところが、14億人の心を共産党に惹きつけようと目論んだ「台湾軍事解放」をあざ笑うかのように、台湾は半導体を「盾」にして習近平中国の脅しに一歩も引かない。
 
 これは実に不思議なことだ。
 
 台湾の人口は約2300万人、大陸と比べたら芥子粒のように小さな島だ。人民解放軍がひとたび戦を始めれば、ミサイルで簡単に壊滅させられそうに見えるがそれは絶対にないと台湾人は確信している。
 
 台湾有事の際、真っ先に問題となるのが半導体リスクである。
 
 台湾は先端産業に不可欠な半導体の「技術力」と「生産力」で世界のトップを走り、中国の産業は台湾の半導体が確保できなければ一瞬で息が止まるほどの打撃を受けるからだ。
 
 中国経済が改革開放で成長に次ぐ成長を実現したのは、世界の企業が安価な労働力を求めて「世界の工場」と呼ばれるほど中国に集まったからだ。すると、世界の工場から徐々に世界の開発企業となり、アパレルから家電、化学品、軽工業、重工業、自動車、造船、機械、精密とほとんどの産業で世界のトップと肩を並べるまでになった。
 
 ところが、歴史に残るようなスピードで世界の工業国の仲間入りを果たしたものの、中国の産業に欠けていたのは、最先端製品に不可欠な半導体である。
 
「中国には世界中の半導体工場が進出しているじゃないか」と不思議に思う人もいるだろう。しかも中国は「中国製造2025」を掲げ、半導体技術のキャッチアップに国を挙げて取り組んできた。また、世界の主要半導体メーカーである米国のインテル、クアルコム、マイクロン・テクノロジーやオランダのASML、台湾のTSMC、韓国のサムスン、SKハイニクスなどが進出していて、生産力は世界で最高水準に達している。
 
 ただし、中国企業の半導体生産は一歩も二歩も遅れている。外資系の受託生産がほとんどであり、自前の技術と自前のエンジニアで最先端の半導体を開発し、設計する実力はまだない。
 
 中国は自動車大国であり、造船王国であり、また、情報通信王国であり、原子力大国でもある。つまり、先述したように先端産業で世界のトップに立っているが、その電子機器の中枢を担う半導体に関しては発展途上といえる。宇宙船を飛ばそうが、空母を建造しようが、心臓部で機能する半導体は台湾に依るしかないのだ。
 
 だから「台湾有事」は絵に描いた餅とも言われるのだ。
 
 この10月に米国が発表した対中半導体制裁の強化は、これまでとは次元の違う厳しさであり、習近平政府は「台湾解放」を口にする余裕はない。
 
 米国はトランプ時代に中国ハイテク産業の発展を阻むべく、先端技術の輸出規制や特定の中国企業との取引禁止などを打ち出してきた。しかし、今回の米国商務省産業安全保障局(BIS)が発表した輸出規制強化は、世界の先端産業のありようを根本から変えるほど厳しいものだ。
 
 これは中国の半導体の設計、開発、AI、量子コンピューター、データ産業に深刻な打撃を与えるはず。つまり、中国を先端産業から追い出すようなものなのだ。

(団勇人/ジャーナリスト)
 

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