ほんまに大したものや。ヤクルトの村上がプロ野球の歴史に名を刻んだ。9月13日の巨人戦で、王さんの持つ日本人最多のシーズン55本塁打に並んだ。村上の背番号もそうやけど「55」というのは、松井秀喜ら歴代のスラッガーが背負った特別な数字。日本人では無理かなと思っていたけど、バケモノみたいな打者が出てきた。
僕は自宅にいる時はプロ野球の試合を何画面も同時にチェックしているけど、村上の打席は見ていてワクワクする。解説者として球場で見ている時は、試合終盤になると「最後にもう1回、村上に打席が回ってこないかな」と自然と願っている。球場に来ているファンと同じ気持ちやと思う。試合展開に関係なく、ファンは村上に打席が回る可能性があるなら最後まで席を立とうとしない。ここからの1本、1本が歴史的な瞬間になる。球場で見たファンは「村上の何号ホームランを生で見たで」と自慢できる。バレンティンの持つプロ野球記録の60本も夢ではないし、残り試合でどこまで迫れるか楽しみ。
村上を見ていて好感を持てるのは、ホームランを打ってもへんにはしゃがないところ。節目の55号は5点負けている9回に打った3ランで、ニコリともしなかった。阪神はホームランを打った選手にベンチで祝福のメダルをかけるけど、村上なら「負けている時はいらん」と拒否するんちゃうかな。チームが負けている時はいつも険しい表情をしている。食うか食われるかの世界やから当然のこと。安いパフォーマンスをしないのがいいね。
ただ打つだけの選手ではないのも素晴らしい。三塁の守備も年々、上達しているし、大きな体のわりには足も速く、走塁の意識も高い。盗塁数もすでに自己最多タイの12個をマークしている。20個台で盗塁王争いしている選手たちは、恥ずかしいと思わなアカンで。隙あらば走る姿勢を見習わないといけない。村上の盗塁死はセ・リーグ最多の7やけど、これも立派な数字。それだけ勝負を仕掛けたということやからね。
不思議なのは犠飛がひとつもないこと。外野フライでOKの場面でもそのままフェンスを越えるということもあるし、勝負を避けられることが多いからやろうね。ランナーが三塁で一塁が空いていれば、相手は四球で歩かせようとなる。昔、ノムさんに「フク、絶対にホームランを避けるにはどうしたらいいかわかるか」と聞かれた。答えは「歩かせること」やった。ほんまその通り。穴がないから、相手からすると逃げるのが一番。5番にはオスナが座ることが多く、申し訳ないけど打ち取りやすさが全然違う。
だから四球の数は両リーグ断トツで100を軽く越えている。球場のお客さんが申告敬遠に対してブーブー言うこともあるけど仕方がない。特に順位争いしているチームにとってこの時期の勝ち負けはすごく重たいから。まともに勝負してくれる場面が少ない中でもボール球を振らずに我慢できているのやから、なおさらすごい成績といえる。
令和初の三冠王のチャンスもあるし、気が早いけどリーグMVPも確実やろうね。最多安打のタイトルも狙える位置にいるけど、ついでに最多四球もタイトルにして、村上にあげたらいい。「申告敬遠王」なんて作っても面白い。30個いくかいかないかの低レベルな盗塁王より、よっぽど価値がある。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。