4月26日、韓国の尹錫悦次期大統領が日本に派遣した代表団と会談を行った岸田文雄総理。岸田氏には尹氏からの親書が手渡され、来月行われる大統領就任式への出席に期待をのぞかせた。だが、総理周辺には「日韓関係に進展が見られない中での出席は難しい」との声も根強く、日韓関係改善に向け、両首脳の今後の動向が気になるところだ。
一方、そんな中、韓国では任期満了があとわずかに迫った文在寅大統領の悪あがきともとれる攻防が続いている。それが4月15日に与党「共に民主党」が提出、党を挙げて成立させようと躍起になっている「検察捜査権廃止法案」、題して“文在寅保護法”だというのだ。
「現在、韓国において、行政・立法・司法・軍などの高官やその家族の捜査は、高位公職者犯罪捜査庁という機関が行っています。それとは別に、不正腐敗や経済・公職者選挙などの犯罪捜査の権限を持つのが検察ですが、今回提出された法案は、検察の捜査権を廃止し、すべてを高位公職者犯罪捜査庁に移行。検察には起訴権のみを残して、“強すぎる検察”の弱体化を図ろうというものなんです。仮にこの法案が成立すれば、検察から捜査権が剥奪されるわけですから、文大統領が辞めた後、検察は一切手出しができなくなってしまう。だから“文在寅保護法”と言われているんです」(韓国の事情に詳しいジャーナリスト)
韓国では大統領を退いた後、在任中の不正が暴かれ、逮捕・起訴され、最後は収監という悲惨な末路をたどることは珍しくなく、現在の文政権も大統領夫妻に関する土地売買や衣装代疑惑から、内閣幹部や民主党議員による選挙違反、公金横領や流用疑惑まで様々な不正や不法行為疑惑が報じられてきた。
「しかし、その多くが政権の圧力によって握りつぶされたり、進行を遅らせるということが実際に起こってきました。その代表的な事案の一つが、蔚山市長選をめぐる不正疑惑です。これは市長選に当選したのが文大統領の『30年来の友人』とされた人物で、選挙には多くの政府、与党関係者が不当介入したとされ、20年1月、ソウル中央地検が与党要人ら15人を次々に起訴しました。ところが公判は遅々として進まず、起訴から2年以上が経過しながら、1審判決の見通しすら立たない状態。その理由は、野党側の検事総長と対立した法相(当時)が担当検事らを次々に左遷したことにあるのですが、実はその時の検事総長が、新大統領の尹氏なのです。つまり、尹氏が大統領になれば、捜査が一気に進展することは必至。そうなれば当然、文大統領や周辺議員にも捜査の手が及び、逮捕・収監ということもあり得るため、与党としてはそれだけは阻止したい。それが土壇場での法案提出という暴挙に出た最大の理由なのです」(同)
同法が国会を通過するためには、与党3人とその他の議員3人で構成された案件調整委の3分の2の賛成(4人)が必要だが、現在、与党は残り1人を抱き込んで4人の賛成で案件調整委を通過させようと必死だと伝えられる。とはいえ、まさに国会史上類例を見ない姑息な手段で国会通過が懸念されるこの新法。その行方に、国民すべての視線が集まっている。
(灯倫太郎)