野村氏追悼試合の舞台裏「ヤクルトに野村ノートがない?」

 恩師・野村克也氏の追悼試合(6月29日)に敗れた後、東京ヤクルトスワローズの高津臣吾監督は「最近は先発が試合を作れていない。チームとして、何とかしなければけない」と力なく語った。

 ヤクルトはペナントレースの順位こそ3位だが、同試合を終えた時点で、首位阪神とは1勝8敗1分け、2位巨人に対しても2勝7敗1分けと、完全に“白星献上”状態にあるのだ。ヤクルトが“上位叩き”をしなければ、セ・リーグは阪神と巨人の一騎討ち、他4球団は消化試合となってしまう。

「ヤクルトは大きなチャンスを逃してしまいました。交流戦明け、下位の中日、広島との対戦が続きました。そこで勝ち越した後、巨人、阪神とぶつかり、巨人戦に3連敗した後、追悼試合でもあった阪神との3連戦の初戦を落としてしまいました」(ベテラン記者)

 高津監督は先発投手の不甲斐なさを口にしたが、チームの戦況を見てみると、まず、クローザーの石山泰稚が不調で二軍落ちしており、追悼試合ではワクチン接種の副反応で外野手のサンタナが出場登録を抹消されている。救援陣に一抹の不安を抱え、大量得点が望めないからこそ、先発投手に踏ん張ってほしいという意味なのかもしれない。

 同日の先発マウンドを務めた田口麗斗投手について、こんな指摘も聞かれた。

「2アウトから7連打を浴び、一挙5点を失いました。バッテリーのミス、このイニングに限って言えば、阪神打線はヤクルトバッテリーの配球をしっかり読んでいたように思います」(同前)

 配球の重要さを説いたのが故人であることは、言うまでもないだろう。また、野村氏は自著で「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」とも綴っていた。

 これらの“格言”は、故人がミーティングで伝えていた。ヤクルト、阪神、楽天と指揮を執ったチームで熱弁が振るわれ、「野村ノート」の存在も有名になったが、こんな指摘も聞かれた。

「ヤクルトが元祖ですが、野村ノートのオリジナルを持っていないのは、ヤクルトだけなんです。阪神、楽天では野村氏がホワイトボードに書くスピードに選手がついていけないとのことで、プリント配布やスライドが作成されました。ヤクルトの選手は全員、手書き。だから選手個人はノートを持っていても、球団には当時の資料が残っていません」(同前)

 野村ノートは在籍した選手個人の私有物となった。高津監督も当時のノートは大切に保管しているはず。手書きのほうが記憶に残るとは思うが、野村ノートを読み返さなければ、セ・リーグは2強4弱に陥ってしまうだろう。

(スポーツライター・飯山満)

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